程度の違いこそあれ基本的には懐かしい人との再会は大体嬉しいものだ。
ただ、その場所がテレビ局のロビーともなると意外過ぎて少しばかりフリーズしてしまうのも仕方のない事だろう。
もし人違いだったらどうしようかとついて回る僅かな不安を押さえ込んで声をかける。
覚えていなかったら思い出してもらえばいいいだけの話だし。なんて我ながら図太くなったと考えながら。
「桜庭せーんせ」
気難しそうな顔をして考え込んでいた顔がこちらを向いて驚きに変わるのを見た。
よかった。その様子だとちゃんと覚えていてくれたらしい。
「加蓮……か?」
「そ、綺麗でかわいい北条加蓮さんですよー」
笑顔でひらひらと手を振るが目の前の人は顔を押さえて再び考え込んでしまう。
なにその反応。ちょっと傷つくんですけど。軽く蹴っとばしてやろうかな。
「いや、まさかこんな所で知り合いに会うとは思わなかったからどうすればいいかわからないんだ」
「それはこっちの台詞だよ。一体何してるの?」
とは言ってみるが衣装を見れば出演者の1人だろうというのは簡単にわかる。
事前に渡されていた台本に「元医者の異色男性アイドル」なんて文字が踊っていたけどそれが知り合いだなんて一欠片程も想像していなかった。
「見てわからないか?」
「冗談だよ」
「その様子だと君も出演者か?」
「もう。私はれっきとしたトップ集団の1人です」
私と奈緒と凛のトライアドプリムスはトップグループの中の一角に食い込むほどの人気を得ている。
文字通り今回の番組の目玉だ。
「済まない。まだ業界に入って日が浅いものでな」

昔まだ私が入院していた時に医師免許を取得したばかりの研修医の1人として赴任してきたのが目の前に居る桜庭薫先生だった。
割合年齢も近かったこともあってかそれなりに会話を交わす程度には仲が良かったんだけど、
私の病気も完治して退院すればそれっきりだと思っていたのに人の縁なんてどこで繋がるかわからないものである。

「でも偶然って怖いね。医者と患者がこうして再会するなんて。これで清良さんまでいたら何かのドラマみたい」
「清良さん?」
「うちの事務所のアイドルで元看護士さん。怒ると怖いよ?」
「……」
「何その沈黙」
「……さっき会ったが……居るんだ。僕たちが居た病院のじゃないがれっきとした元看護士が。さっき挨拶をしてきた」
「マジ?」
わざわざ苦労して取った資格を放り出して芸能界なんてヤクザな職場に来るなんて物好きもそんなに何人も居るんだろうか。話には聞くけどもしかしたら医療業界って想像以上にブラックなのかも。
しかし医者、看護士、患者と勢ぞろいになっちゃうとなるともう少し進行とか台詞考えたほうがいいのかなぁ。きっと司会の人もそのあたりは突っついてくるだろうし。