事務所に顔を出したら、同年代のアイドルの一人である木場真奈美がなにやら難しい顔をしていた。
普段は不敵な笑顔が多い彼女にしてはこの表情は珍しい。
「おはよう。どうしたのそんな難しい顔をして」
「ああ留美か、おはよう。今度撮影に使うから慣れておけとスタッフからコレを渡されたんだが……」
そう言って手元の銃を持ち上げるが、その眉は訝しげに潜められている。
「こいつをどう思う?」
そう言って渡された銃を一瞥して受け取る。少し手の中で弄んでいたがふと何かに気づいたようで
マガジンを外し、スライドを引いて薬室に残っていた弾丸を取り出す。
そうして取り出した弾丸を観察して、
「銃自体はモデルガンだけど、少し弄れば普通に撃てるようになってるわね。で、弾は本物」
と結論付けた。
「やっぱりそうか……」
「貴方なら向こうで見たことあるんじゃないの?」
「いくら向こうに居たからといってそうホイホイ見られる訳が無いだろう。無いとは言わないが片手で数えられる程度だよ」
此処は法治国家日本である。持っているだけでも違法であり、
然るべき所に届け出るだけでもかなり面倒な事になるのは想像に難くない。
「さてこれをどうしたものかな……」
解決策も思い浮かばずに頭を抱えていると意外な所から救いの手が差し伸べられた。
「昔の知り合いにこのテの事に詳しい人が居るから聞いてみましょうか?」
「そうしてもらえると助かる。どうしていいかわからなくて途方にくれてたんだ」
物が物だけに会話を聞かれたくはないのか、隅の方に移動して懐から携帯を取り出しアドレス帳から目的の番号を呼び出す。
「携帯取り出しポパピプペと……繋がれば良いけど」
どうやら目的の相手には繋がったようで話し声が聞こえてくる。
「どうも和久井と申します。…ええ、お久しぶりですねオールドギース……」
しばらく何事か話していたようだが断片的に聞こえてくる会話からは想像しようが無かった。
やがて話はついたのかこちらへ向かってくる。
「話はついたわ。これから橿原さんという人の使いがくるからその人に渡してちょうだい。後は向こうがうまくやってくれるから」
「ありがとう。しかしいろんな人と知り合いなんだな君は」
「秘書なんてやってると色々知り合いは増えるものよ」