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だから俺達に新作ガンダムを作らせろよ7

0001創る名無しに見る名無し
垢版 |
2011/11/28(月) 23:40:31.07ID:ckmi6Mb6
・これまでのガンダムシリーズの二次創作でも、
 オリジナルのガンダムを創っても、ガンダムなら何でもござれ
・短編、長編、絵、あなたの投下をお持ちしてます
・こんな設定考えたんだけどどうよ?って声をかけると
 多分誰かが反応します。あとはその設定でかいて投下するだけ!

携帯からのうpはこちら
ttp://imepita.jp/pc/
PCからのうpはこちらで
ttp://www6.uploader.jp/home/sousaku/

過去スレ
「だから俺達に新作ガンダムを作らせろよ6」
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1318547846/l50
「だから俺達に新作ガンダムを作らせろよ5」
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1280676691/
「だから俺達に新作ガンダムを作らせろよ4」
ttp://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1258723294/
「だから俺達に新作ガンダムを作らせろよ3」
ttp://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1245402223/
「だから俺達に新作ガンダムを作らせろよ2」
ttp://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1236428995/
「だから俺達に新作ガンダムを作らせろよ」
ttp://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1219832460/

これまでの投下作品まとめはこちら
ttp://www26.atwiki.jp/sousaku-mite/pages/119.html
0034創る名無しに見る名無し
垢版 |
2011/12/02(金) 00:11:58.12ID:r7WWcKfU


 宇宙世紀0079。スペースコロニー・サイド3はジオン公国を名乗り、地球連邦政府に対し宣戦を布告した。
 同年1月15日、ドズル・ザビ中将率いる公国軍機動艦隊がサイド5に侵攻。地球連邦軍はこれに対しレビル中将率いる第一連合艦隊を差し向け、後に言
う『ルウム戦役』の戦端がここに開かれる。
 数で勝る連邦艦隊に対し、公国軍は『新兵器』を投入し対抗。必勝を期して人類史上初の宇宙艦隊決戦に臨む。

 しかし、その『新兵器』の存在は、すでに連邦軍に察知されていた――


  *


 公国軍の新兵器は『二つ』存在した。
 一つは、結果としてそれまでの宇宙戦闘の定型を根本から覆した20メートル級汎用人型機動兵器『モビルスーツ』。そしてもう一つは全長230メート
ル超の超大型核融合プラズマ・ビーム砲『ヨルムンガンド』である。
 公国軍側が企図していたルウム戦役のシナリオは、作戦としては至ってシンプルなものだった。まずはセオリー通り艦隊同士による砲雷撃戦から始めるが、
数で劣るこの戦は捨てる。多少の損害には目を瞑る。第一フェイズであるこの艦隊戦の最大の目的は、敵艦を沈めることではなく、敵艦の弾薬、推進剤を使
い切らせることである。それによってこの後のMSによる敵艦攻撃の際の弾幕を薄くしてMS部隊の負担を減らすことができ、また初弾以降にヨルムンガン
ドの存在を認識した敵艦に、それでも満足な回避行動を取らせず安定した命中率及び戦果を確保することができるのである。

0035創る名無しに見る名無し
垢版 |
2011/12/02(金) 00:13:15.64ID:r7WWcKfU


 よって公国軍艦隊は防御を捨てる。敵艦隊の眼前まで踏み込み、一歩も引かずに零距離砲戦を挑む。連邦軍は田舎の猪武者が飛び込んできたと、戦果を挙
げるべくこれまた一歩も引かずに応戦するだろう。目の前に的がいるのに撃たない馬鹿はいない。政治的状況から考えても、ここで敵が消極策を取ることは
あり得ない。地球にコロニーを落とされた連邦軍に求められているのは、クレバーな判定勝利ではなく、痛快なる完全撃砕なのだ。敵は必ずこの誘いに乗る。
 充分な『戦果』を挙げたと判断したら、公国軍艦隊は一旦引いて陣形を立て直す。敵がそれを見てさらに止めを打とうと踏み込んでくるか、その場に留ま
ってクールダウンを入れようとするかは分からない。
 それは別に、どちらでもいい。
 本当の地獄は、そこから始まるのだ。
 そして実際に、歴史はそう推移した。連邦軍第一連合艦隊は公国軍のそれに勝る圧倒的大打撃を受けて壊滅し、艦隊司令のレビル中将までもが捕虜に取ら
れ、完全に戦線は瓦解した。
 ――ただし。

0036創る名無しに見る名無し
垢版 |
2011/12/02(金) 00:15:03.73ID:r7WWcKfU


 1月15日、2156時。
 ヴィロード・カミヤ伍長の所属する公国軍機動艦隊所属第11MS小隊は、定刻4分前に目標のルウムN3宙域に到着した。「見えたぞ。あ
れだ」隊長のジェシー・リン少尉から通信が入る。
 まだ点のようにしか見えなかったが、ヴィロードにも『それ』は視認できた。ヴィロード達小隊の今日の作戦の要、ひいてはこれから始まる
大決戦の趨勢を決する船。試験支援艦ヨーツンヘイム。巨大な二つのカーゴ・ベイに主となる船体が小さくなって挟まれている、といった風情
の輸送艦であり、全体に暗緑色系の迷彩塗装が施されている。宇宙空間でははっきり言って無意味な迷彩だ。それでもあえてそれを施している
のは、それによってこの船の『役目』を明確にしようという意図なのだろう。
 そして、そのヨーツンヘイムの傍らに浮かんでいる、ヨーツンヘイムと同じくらいの全長を有する長大な――「…あれが」
「あれが、砲だっていうんですか?」
「らしいな」
「発射の余波で、僕達まで吹っ飛ばされませんかね」
「砲自体は反動を殺すように設計されてるらしいが――考えてみりゃ、そりゃ砲手に対しての話だよな。超高出力のビームは、掠めただけでも
宇宙戦艦に充分な損傷を与えられる。俺達の木っ端ザクなんかひとたまりも無えな。唐揚げにされるか、吹っ飛ばされて宇宙の藻屑と消えるか、
だな」
「帰っていいすか、隊長」
「駄目だ。こいつと母艦のヨーツンヘイムを護衛するのが今日の俺達の任務だ。唐揚げにされても持ち場を離れるな。吹っ飛ばされたら戻って
来い」
「きつい仕事だぜ」
「唐揚げにされたら労災下りますよ、軍曹殿」
「付け合せにポテトサラダでもつけてくれんのか、ああ?」

0037創る名無しに見る名無し
垢版 |
2011/12/02(金) 00:16:27.95ID:r7WWcKfU


 軽口を叩きながら、三機のMS‐06Cザクで構成されるリン小隊はヨーツンヘイムに接近した。2158時。隊長のジェシーが通信回線を
開く。
「こちら機動艦隊第11MS小隊、隊長のジェシー・リン少尉だ。定刻通り、本日2200時より貴艦及び艦隊決戦砲の護衛任務に就く。よろ
しく頼む」
「ヨーツンヘイムより第11MS小隊へ。艦長のマルティン・プロホノウだ。本艦及び決戦兵器は近接した敵に対しての防空能力を備えておら
ん。我らの命運、貴官ら小隊に預けようと思う。貴官らの健闘に期待する」
「了解です、艦長。最善を尽くします」
 リン少尉のザクは脚を大きく振って逆さまになり、バックパックを再噴射してその場に静止した。眼下には細部まで視認できるようになった
ヨーツンヘイムとヨルムンガンドがある。「リン小隊、−《ライン》隊形! 二番機は右翼、三番機は左翼を警戒! 俺がセンターで指揮を執
る!」
「「了解!」」
 二機から同時に応答があり、二機のザクがリン機の両翼に、先程のリン機と全く同じ挙動で静止した。さらにAMBACで各機が90度旋回
し、左右を警戒する。「…始まりますね」ヴィロードが呟く。
「さすがに緊張するか?」
「そりゃあ、正直。初飛行でなくてよかったですけど、まさか初陣が、こんな大規模な艦隊決戦になるなんて――」

0038創る名無しに見る名無し
垢版 |
2011/12/02(金) 00:18:00.18ID:r7WWcKfU


「分からんではないな。俺も正直、不謹慎だが、ちょっとわくわくしてる。何しろ人類初の宇宙での艦隊決戦だからな。命のやり取り、戦争を
してるって自覚はあるつもりだが――何が起こるか、興味深い一戦だと思う」
「しかし、その暢気な台詞が出てくるのも、要は俺達が『居残り組』だからでしょう。あーあ、俺も前線で派手に暴れたかったぜ」
 軍曹のぼやきに、ヴィロードは口を引き結んだ。――他のMS小隊は作戦の第2フェイズで、勇躍敵陣に突入して敵艦隊を撃滅する手筈にな
っている。対艦攻撃シミュレーションにはヴィロード達も何度も参加した。やれる。自信ではなく、事実としてそう思った。このMSという兵
器にはそれだけの能力がある。第2フェイズの艦隊攻撃は必ずや成功するだろう。第1フェイズはその成功率を高めるための準備砲撃でしかな
い。
 居残り組にされた、とは思いたくなかった。隊長のジェシー・リン少尉、ナンバー2のゼン・カストラ軍曹、そして自分。確かにシャア・ア
ズナブルやランバ・ラルなどという連中と比べられると何も言えないが、自分の目で見た二人の実力が、他のパイロットと比べて明らかに劣っ
ているとは思わない。しいて言うなら――ヴィロード自身はMSでの飛行経験もそれほど無く、実戦もこれが初めてだ。しかしそれでも、この
二人の指導に歯を食い縛ってついてきたという自負はある。
 単に役割分担の問題だ、と思う。このヨーツンヘイムとヨルムンガンドもまた、この決戦の一翼を担うものだ。第1フェイズに味方艦隊より
送られてきた敵艦隊の座標データを元に最終照準調整を行い、第2フェイズ開始と同時に砲撃する。弾速の速いビームの方がMSより先に敵艦
隊へ到達し、第一射で泡を食った敵にMS部隊が襲い掛かるという段取りだ。しかし万一、敵が事前にそれを察知しないとも限らない。その時
のために自分達がいるのだ、と思う。確かに重要な役回りではないが、かといって無くてもいい役目とは思わない。むしろ誰かがやらなければ
ならない。ヴィロードはそう思っていた。
「同感です」
 でも、同感だった。
 同感なんて暢気な口を利けるのは、『それ』がやって来るまでだった。

0039創る名無しに見る名無し
垢版 |
2011/12/02(金) 00:19:25.66ID:r7WWcKfU


 2214時。
 それまで星の瞬きしか見えなかった虚空に、ちかちかと明滅する光が生まれ始めた。光と光の間で行き交う細い光条――火線。「始まった…
!」
「隊長! 僕らは」
「騒ぐな! 俺達は何もしない。全機現ポイントを死守。何かするのは下にいる蛇だ」
「第一、ここからじゃどの道前線からの座標データが無いと当たりゃしねえ。まだ俺達の出番じゃねえよ、ヴィロード」
「…しかし、皆は戦っています…!」
「はいはい。いい子だから静かにしてな、坊や」
 それきり、会話は止まった。作戦中に余計な私語をする馬鹿はいない。静寂と緊張を孕みながら、刻一刻と時は過ぎていく。
 ――2245時。「遅い…!」
「…確かに遅えな。ヨルムンガンドの攻撃はMSの出撃に先行するはずだ。そろそろ第一射を仕掛けてもいい時間だ」
「問題発生、ですかね」
「…聞いてみるか」
 リン機がヨーツンヘイムに回線を開く。「リン小隊一番機よりヨーツンヘイム。状況を確認したい。本隊からの最終攻撃指令はまだか?」
 応答まで、しばらく間があった。
「――こちらヨーツンヘイム。当方も現在状況を確認中。本隊からの座標測距データが来ない。リン小隊は現状を維持されたし」

0040創る名無しに見る名無し
垢版 |
2011/12/02(金) 00:20:58.44ID:r7WWcKfU


 答える声の後ろで、まだか、とどなる男の声が聞こえた。どうやら艦内もだいぶ慌てているらしい。「…データが来ない…?」
「本隊の馬鹿がデータ送んのを忘れてるか、あるいは、作戦変更か――」
「変更なら通達があるはずです。やはり何かのトラブルじゃ」
「…本隊は苦戦するのも覚悟の上のはずだ。押され気味だったんで送信できませんでした、じゃあるまい。別の理由があると思えるが――」
「うわ!?」
 ヴィロードは思わず声を上げた。「どうしたヴィロード!」「三番機、状況を伝えろ! 敵か!?」二人から続けざまに通信が飛ぶ。「い、
いえ大丈夫です。敵襲ではありません」言いながら、ヴィロードは正面に向き直った。接触状態ならこちらの声は伝わるはずだ。そのまま声を
上げた。
「何やってんだお前! 作戦行動中だ! 離脱してヨーツンヘイムへ退避しろ!」
 ノーマルスーツの人影が一つ、ザクの目の前――つまりメインカメラに張り付いていた。
「申し訳無い! 私は第603技術試験中隊、オリヴァー・マイ技術中尉だ! そちらの官姓名を教えてもらいたい!」
 それ以前に何の用か、と思ったが、中尉――上官の言う事では仕方が無い。「機動艦隊第11MS小隊三番機、ヴィロード・カミヤ伍長であ
ります!」
「カミヤ伍長、仕事の邪魔をして申し訳無い。本官及びヨルムンガンドの任務を遂行するため、貴官の助力を請いたい」
「…助力?」

0041創る名無しに見る名無し
垢版 |
2011/12/02(金) 00:22:49.74ID:r7WWcKfU


「現在ヨルムンガンドは、敵艦隊の精確な座標データが届かないために、攻撃が出来ない状態だ。このままでは戦局に何の貢献もできずに終わ
ってしまう。砲術長はここからの観測データのみで撃つと言っている。時間が無い。残る方法は一つ――誰かが前線まで行って、敵座標を特定
するしかない」
 ――中尉の言わんとしている事を理解するのに、しばらく時間が必要だった。「…つまり」
「僕のザクを、ターゲット・スコープにしようってんですか?」
「そういうことになる。私と一緒に前線まで行って、座標データ収集に協力して欲しい」
「…本気かよ、そんな作戦…」
「本気だと示すために、私がノーマルスーツでここまで来た」
「しかし、それは本来の作戦とは」
「いや、行けヴィロード。もう時間が無い」
 二人の会話に、リン少尉が割り込んだ。「隊長、ですが」「時計を見ろ。時間だ」言われて時計を見た。2300時。第2フェイズ開始時刻。
「艦隊も引き揚げ始めている。MS部隊もじきに発進するだろう。支援砲撃をかけるなら今しかない。行ってこい。このまま観客で終わりたく
なければな」
「しかし、もし作戦変更だとしたら、こちらの判断で砲撃をかけるのは」
「だからそれも行って聞いてこい。目の前まで行ってまともな答えが聞けなければこっちで勝手にやるさ。それで何か言われても結局責任を取
るのは本隊の総司令だ。俺らの知ったことじゃないさ」
 …いざとなったら、ドズル・ザビ中将に責任をふっかけてこいと言うのか。「いや、それはさすがに――」
「という解釈でよければ、当小隊の要員をお貸ししますが、いかがですかな? 中尉殿」

0042創る名無しに見る名無し
垢版 |
2011/12/02(金) 00:24:29.36ID:r7WWcKfU


 唐突に話を振られたマイ中尉は、しかし逡巡するのも一瞬、すぐさま答えを返した。「感謝します、リン少尉。カミヤ伍長は必ずや無事にお
返しします」
「それは伍長本人の責任と思いますが、結構でしょう。――というわけでヴィロード、作戦変更だ。貴様は直ちに現戦域を離脱、以後はマイ技
術中尉の指揮下に入れ。折角の初陣だ。こんなところでくすぶってないで、一丁前に出て皆さんのお役に立ってこい」
「そうだぜヴィロード。行って来いよ。ここは俺達が守ってやる」
「…」
 ヴィロードはため息を一つ吐き、コクピット・ハッチを開いた。中尉のノーマルスーツが滑り込んでくる。「僕の運転は隊長ほど上手くあり
ませんよ」「覚悟の上だ」またしても即答。どうやら本当に本気らしい。
「確認ですけど、ヨーツンヘイムに許可は取ったんでしょうね」
「勿論だ。急ごう。ぐずぐずしてると砲術長のダミ声が飛んで来るぞ」
「…これも、誰かがやらなきゃいけない事、か」
 呟き、正面を見据えた。漆黒の宇宙《そら》。その向こうに小さな星のように、無数の光が明滅する。「隊長、行ってきます」「自衛目的を
超える戦闘行為は許可しない。必ず原隊へ復帰せよ。以上」
 無理はするな。必ず帰って来い。
「了解。――ヴィロード・カミヤ、行きます!」
 宣言し、スロットルを押し込んだ。周囲の星が流星となり、ザクの加速を伝える。「ぐっ――速い…!」後ろでマイ中尉が呟いた。
「最大戦速で行きます。身体をどこかに固定してください」
「りょ、了解!」
 一瞬どもったが、またしても即答だった。技術屋さんにしては肝が据わっている。小さく笑い、ヴィロードはさらに加速した。
 警告音が耳に届いたのは、その瞬間だった。「え?」

0043創る名無しに見る名無し
垢版 |
2011/12/02(金) 00:25:52.25ID:r7WWcKfU


 そして、その意味を認識するより速く、ヴィロードの目は正面から飛来した『それ』を捉えた。「な!?」一瞬で通り過ぎる。凄まじいスピ
ードですれ違った。AMBACで宙返りし、減速する。
「今のは!?」
「どうした伍長! どうして止まるんだ!」
 マイ中尉には見えなかったらしい。無理も無い。パイロットの目でも影を追うのがやっとの相対速度だった。集中もしていない内勤の中尉に
見えるとは思わない。
 しかし、あれは、確かに――
「二番機、撃て!」
「しかし、ありゃMSですぜ!」
「しかし敵だ! 状況を認識しろ! 母艦と決戦砲を護れ!」
「畜生――何だってんだテメエはコラァァァ!」
 隊長と軍曹の怒号。かろうじて聞こえたのはそれだけだった。ヨーツンヘイムの声はミノフスキー粒子の影響で届かない。しかし状況を把握
するには充分だった。
 あれは、確かに、『MS』だった。「中尉、後退します」
「ま、待て! しかし我々は!」
「砲がやられちゃ意味無いでしょう! 敵が来ているんです!」
「そんな――あり得ない! 主戦場からどれだけ距離があると思ってるんだ!? どう考えても捕捉されるはずが無い! しかも砲撃を始める
前にだと…!?」
 議論の時間が勿体無かった。ヴィロードはスロットルを押し込み、もと来た航路を最大戦速で引き返す。一度止んでいた警報が再び鳴り始め
た。会敵《エンゲージ》。照星が先に敵を捕捉し、やがてヴィロードの目にも見えた。二機のザクから十字砲火を受け、しかし凄まじいスピー
ドでそれを回避するMS。「白い…?」思わず呟いた。そのMSは、目にも眩しい白亜のカラーリングが施されていた。白いMS。

0044創る名無しに見る名無し
垢版 |
2011/12/02(金) 00:27:32.19ID:r7WWcKfU


「ご親切なMSだな!」
 トリガーを引いた。ザク・マシンガンから放たれた火線が白いMSに襲い掛かる。タイミングも完璧。隊長と軍曹の銃撃をかわし、速度がわ
ずかに落ちた瞬間を狙った。命中。ありったけの弾をフルオートで敵の白い躯に叩き込みながら、ヴィロードはそのMSとすれ違った。「イヤ
ッホー!」撃破を確信し、快哉を挙げる。
「ヴィロード! チェック・シックス! ユニフォーム!」
 後方に注意。回避せよ。「え!?」
 反射的に機を側転させた瞬間、凄まじい衝撃がコクピットを襲った。「ぐああああっ!?」「馬鹿な!?」マイ中尉の悲鳴と、ヴィロードの
驚愕の声と、一斉に鳴り出した警報音が重なった。被弾。機体温度危険域。計器動作に異常発生。右腕部及び脚部信号途絶。メイン・ウェポン
信号途絶。プロペラント・タンクに損傷発生。爆発の危険あり。直ちにエンジンをカットせよ。「そんな――どこを、どこをやられたんだ!?」
警告の意味は理解できても、ヴィロードの意識は追いついていなかった。右腕と脚を持っていかれた。それも一撃で。計器や機関部にまで異常
が発生している。戦艦の主砲でも食らわなければあり得ない。
 ヴィロードは残った腕を振ってザクを反転させた。「うわ――!?」瞬間、光がヴィロードの網膜を焼く。ビーム。嘘だ。叫んだ。自分の見
たものが信じられない。光が奔る一瞬前、白いMSが手にしたライフルをこちらに向けるのが見えた。
 ビーム砲を装備した、MS――!

0045創る名無しに見る名無し
垢版 |
2011/12/02(金) 00:29:02.33ID:r7WWcKfU


「あり得ねえ――! 隊長、何ですアイツは! まさか連邦軍ってんじゃないでしょうね!」
「そんなわけあるか! 連邦がMSだと――ビーム・ライフルを装備しているだと!? 冗談じゃない! そんなことがあってたまるか!」
 叫び、リン機がヒート・ホークを装備した。片手でマシンガンを撃ちながら白いMSに接近する。「隊長! 無茶です!」思わず叫んだ。し
かし応答は無い。通信機までやられたらしい。白いMSが火線をかわし、予測したようにその位置へリン機が飛び込み、斬りかかった。白いM
Sは片手でその腕を掴んで押し留める。
「隊長、止せ! 無茶だ!」
「いや、こうだ! こいつにはマシンガンは効かない! しかもビーム砲を装備しているとすれば、射撃戦でこちらに勝ち目は無い! 回りこ
めゼン! 俺が押さえている間に」
 そこまでだった。リン機が真っ二つになり、爆発する。爆光は一瞬で消え、白いMSが現れた。「何だよ、あれ…」ヴィロードは思わず呟い
た。白いMSはビーム・ライフルを腰のラックにマウントし、それを持っていた右手に細い光の束を握っていた。よく見ると、その手にグリッ
プを握りこんでいるのが見える。大昔のSF映画でしか見たことの無い、光の剣――。
「ち――畜生ォォォォ!」
 ゼン軍曹が叫ぶ。白いMSは左腕に持っていたリン機の腕の残骸を放り棄て、その手にビーム・ライフルを構えた。殺意を乗せた光が宇宙を
照らす。ゼンは全速機動でそれをかわし、そのまま白いMSの死角へ回り込もうとする。白いMSはそれを追尾し、即座に背後を取った。白い
MSが再びライフルを構えた瞬間、ゼン機は宙返りしてその場で減速する。フルオート斉射。白いMSの腕が跳ね上がり、ビームは明後日の方
向へ発射された。そのままの速度で接近する敵に、ゼンはヒート・ホークを抜き放つ。「殺ったああああ!」二機の距離が零になり、ゼン機が
ヒート・ホークを振り抜き、

0046創る名無しに見る名無し
垢版 |
2011/12/02(金) 00:31:38.04ID:r7WWcKfU


「!!」
 白いMSは回し蹴りの要領でゼン機に左脚の踵を食らわせた。きりもみしながら吹っ飛ぶゼン機にビームを撃ち込む。二機目のザクが火球と
なり、それを背にして白いMSは振り返り、ビーム・ライフルを下に向けて構えた。
 ヨルムンガンド。「止せ――止めろ! 有人管制なんだ! 人が乗っているんだぞ!」
 一際大きな爆光が、ヨルムンガンドから上がった。「――」
「うう――な、何が起きた…?」
 後ろで声が上がり、マイ中尉がシートの後ろから身を乗り出す。「!? 駄目だ中尉、見ない方がいい!」
 ヴィロードが叫んだ時にはもう、中尉はその光を見てしまっていた。「――馬鹿な――」
「ヨルムンガンドが――我々の決戦兵器が――!」
「くっ…!」
 ヴィロードは憎悪を込めた眼で、白いMSを睨んだ。一人なら、たとえ半壊のザクでも、一命を賭してでもあいつに一矢を報いたい。でも、
中尉がいた。彼まで付き合わせるわけにはいかない。
 無理はするな。必ず帰って来い。「クソッ…!」
「隊長……畜生……!」
 拳を壁に叩きつける。
 それしか、できなかった。

0047創る名無しに見る名無し
垢版 |
2011/12/02(金) 00:33:01.71ID:r7WWcKfU


 ヨルムンガンドを破壊し、往多翼は息を整えた。護衛がいるとは予想外だった。いないはずなのに。自分の存在が徐々に確定されていた歴史
に干渉し始めたのかも知れない。しかしそれは自分の存在がこちらの世界に同化を始めているということだ。タイムスリップの場合と同じだ。
もたもたしていると修正が効かなくなり、完全に『揺り戻し』が終われば自分はこの世界の時間軸に組み込まれ、元の世界には戻れない。
 ――という二流SF的な解釈も出来るし、単にこのガンダムの存在がジオンに知られた結果、護衛が配備されたというもう少し現実的な解釈
も出来る。
「どっちでもいいけどな」
 呟いた。元の世界へ戻る方法が見つからない以上、無駄な考察だ。ガンダムを正面に向き直らせる。試験支援艦ヨーツンヘイム。ミッション
もいよいよ大詰めだ。ビーム・ライフルの照準を合わせ、回線を開く。「ジオン公国軍機動艦隊所属、試験支援艦ヨーツンヘイムに告ぐ」
「貴艦に交戦能力が無いのは分かっている。よって降伏を宣言して頂く必要は無い。こちらの要求を伝える。貴艦が今回従事していた作戦の責
任者を引き渡せ。その一人を引き渡せば、当方は直ちにこの宙域より撤収する。残りの乗員の安全は保証する」
 返答はすぐには無かった。おそらく相当に混乱しているだろう。何しろ正体不明の敵に、いきなり自分の所属から艦名まで言い当てられたの
だから。
「――こちら、ヨーツンヘイム」
 しばらくしてから答えたのは、渋みがかった老人の声だった。
「艦長のマルティン・プロホノウだ。本艦の責任者というと、私ということになる。私が投降すれば、艦の安全は保証するというのか?」
「保証する」

0048創る名無しに見る名無し
垢版 |
2011/12/02(金) 00:34:20.76ID:r7WWcKfU


「問答無用で仕掛けてきた敵に言われても信用はできん。すでに我々は仲間を君に殺されている」
「信用して欲しいとは思わない。要求に従わないなら、艦を撃沈して生き残りを連れて帰る。全員を危険に曝して決死の反撃を挑むのが貴方に
とって最善の選択なら、好きにすればいい」
「目的は何だ? 何故責任者の身柄を欲するのだ?」
「それは俺の事情だ。教える義理は無い。――ただし、それを教えれば貴方が投降することを確約するというのなら、その限りではない」
 返答まで、しばらく間があった。翼は何も言わずに待った。答えは分かっている。相手にはこのガンダムに抗し得る武装も、頼むべき援護も
いない。本隊は遥か前線だ。「分かった」
「投降しよう。今からそちらへ向かう」
「しかし、艦長!」
「もういい、特務大尉。確かに打つ手は無い。――我々は、負けたのだ」
 女の声をやんわりと制し、その後「ノーマルスーツでそちらへ向かう。受け入れ準備を頼む」と艦長は続けた。翼は「了解」とだけ応えた。
やがてヨーツンヘイムから星よりも小さな光が飛び出した。カメラを拡大する。緊急用の発炎筒《ペンライト》を持ったノーマルスーツ。背中
に背負ったバーニアを噴かして向かってくるそれを、翼はガンダムの手で掴み取った。「――コクピットには、入れてくれんのかな?」相手の
声が聞こえるようになる。

0049創る名無しに見る名無し
垢版 |
2011/12/02(金) 00:35:45.23ID:r7WWcKfU


「当たり前だ。貴方が自爆しないとも限らない。しばらく我慢してもらうぞ」
「君は、連邦軍なのか?」
 違う、と叫びたかった。あんな奴等と一緒にするな。俺は戦争なんかを仕事にはしないし、する気も無い。
 ――でも、言えなかった。言ったところで無意味だった。何も変わりはしない。
「そうだ」
「…ジオンは、意外と早く負けるかも知れんな。秘密兵器であるMSが、すでに連邦にコピーされているとは。しかも、我々が持たないMSサ
イズのビーム砲まで搭載しているとあっては…」
 それも違う。連邦はまだMSを持ってはいない。少なくともこれから半年の間は、公国軍は破竹の快進撃を続けるのだ。
 しかし、たとえそれを言ったとしても、この老人の落胆と敗北感を鎮めることはできないだろう。根拠の無い陳腐な気休めで終わるだけだ。
真実など、今の翼にはクソ程の価値も無かった。このふざけた運命も変えられず、この老人を慰めることもできない真実など――!
 だから、翼は別の言葉を探した。「かもな」

0050創る名無しに見る名無し
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2011/12/02(金) 00:36:57.01ID:r7WWcKfU


「でも、貴方はいい部下を持った。見ろよ。もう行っていいのに、まだ宙域に留まっている」
「…そうか」
 ガンダムの手の中のマルティン・プロホノウが、振り返ってヨーツンヘイムを見た。敬礼する。何を思っていたかなど翼には分からない。―
―ただ、彼にとっては長年連れ添った船《いえ》であることは知っていた。
 ビーム・ライフルをラックに戻し、ガンダムに敬礼させる。「君は…」気づいた艦長が、驚いた声を上げた。
「確かに、ジオンは負けるかもしれない。――でも、彼らは生き残るよ。保証する」
「…気休めだな」
「本当だ。今あの船に乗っている乗員は、誰一人欠ける事無く終戦まで生き残る。そうなることになっているんだ」
「…?」
「さあ、行こう、艦長。悪いがきつい旅になるぞ。何しろこれから、ルウム戦役のど真ん中で単騎駆けをやらなきゃならないんでな」
 言って、翼はガンダムを回頭させた。バックパックを噴かし、加速する。艦長が呻くのが聞こえた。しかし速度を緩めることは出来ない。気
にかけることも難しいだろう。ただ最大戦速で駆け抜け、生きて母艦に辿り着く。今はそれしか考えない。
 何しろあそこには、歴代のジオンのトップエースが勢揃いしているのだ。

0051創る名無しに見る名無し
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2011/12/02(金) 00:38:07.61ID:r7WWcKfU


「艦長」
 呼ばれて、サラミス級巡洋艦《イケイル》艦長、カーク・ヤクネイン少佐はそちらを振り返った。「何か」
「《2.5》の識別信号を確認。戻ったようです」
「――ふん」
 受け入れ準備をしろとも、着艦指示を出せとも言わなかった。この艦には宇宙戦闘機他の機動兵器を運用する機能は無い。ましてや『あんな
もの』など。自力で何とかしろと思う。
 やがて、視界の彼方で光っては消える閃光の中から、一つがこちらへと近づいてきた。その小さな光はやがて白い人型を成し、減速して、サ
ラミスの甲板、主砲塔群の間に着艦した。
「回線を繋げ」
 言って、艦長席横の受話器を取る。「どうぞ」通信士が言うのを聞いて、口を開いた。
「イクタ・ツバサか」
「見りゃ分かんだろ」
 反抗的な小僧《ガキ》だ。
「首尾は?」

0052創る名無しに見る名無し
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2011/12/02(金) 00:39:39.92ID:r7WWcKfU


 往多翼は答えず、ガンダムが片手を挙げた。舌打ちし、「モニター拡大」指示を出す。その手の中に、ジオンのノーマルスーツが握られてい
るのが見えた。「回収班を回してくれ」計ったようなタイミングで、翼の声が要請する。
「除装はさせてるんだろうな」
「させられるわけないだろうが。身体検査はそっちでやってくれ。――最も、ここに来るまでに体力を殆ど使い切ってるだろうけどな」
「役立たずめ。――ランチを向かわせる。妙な真似はするなよ」
 言って、受話器を置いた。「陸戦隊発進準備。捕虜を回収させろ」
「待ってください艦長。本隊より入電。緊急です」
「読め」
「発、《ネレイド》、宛、《イケイル》。《アナンケ》轟沈。レビル中将以下、乗員の安否は不明。以降の指揮は本艦が引き継ぐ。敵の人型機
動兵器により本隊は潰走。本艦はこれより残存艦と合流し、ルナツー宙域まで後退する。貴艦も直ちに任務を中止し、合流されたし。以上です」
 誰も、何も言わなかった。《アナンケ》が――旗艦が沈んだ。レビル将軍は生死不明――いや、宇宙戦闘でのそれは、討ち死にと同じだ。本
隊は潰走。ルナツーまで後退。負けたのだ。地球連邦軍が。宇宙のテロリストを倒すために立ち上がった正義の軍隊が、敗北した。それも旗艦
を落とされ、本隊を叩き潰されるという、無様で手痛い惨敗。
「…ふざけやがって…!」
 艦長のカークは吐き捨てた。敗北という事実に対してではなかった。それよりももっと不可解で不条理な事実――『この大敗を予言した者が
いる』という、その事実に対して反吐を吐いた。全て決まっていたとでも言うのか。この敗北が。ここで負けて、失意と無念の中で死ぬ人間の
数が。
「艦長――ご指示を」

0053創る名無しに見る名無し
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2011/12/02(金) 00:41:05.41ID:r7WWcKfU


「分かっている! 本艦は直ちに作戦を中止、本隊に合流しルナツーへ後退する! 回頭180度! 機関全速!」
「艦長、ランチは」
「中止だと言ったろうが! さっさと逃げないとここにも敵が来るぞ! 《2.5》は自力でついて来させろ! 遅れるようなら置いていく!」
「待ってくれ!」
 翼の声が割り込んだ。受話器を取る。「黙れ! 作戦は中止だ! 本艦は撤退戦に移行する! 貴様も死にたくなければ走れ!」
「待ってくれ! その前に捕虜を回収してくれ! 老いぼれで、ここに来るまでに衰弱しきってるんだ! 艦でもランチでもいいから中に入れ
てやってくれ! これ以上無理をさせたら死んでしまう!」
「本艦の安全が最優先だ! 却下する!」
「頼むよ! この人は自分の船を棄ててここに来たんだ! これじゃ犬死にじゃないか!」
「お前にとってはな! お前にとっては自分の言葉が真実だと示すための身の証だから、そりゃ大事だろうさ! 人の命で自分の保身を図ろう
とするクソガキめ!」
「――何だと…!!」
 怒気を孕んだ声が艦橋に響く。慌しくなりかけたそこが、また静まり返った。「か、艦長、あまり刺激しない方が…」一人がおずおずと声を
上げる。「逆らえるものかよ…!」口の中で言い返す。どうせあの小僧はジオンのスパイだ。そう考えるのが一番現実的でしっくり来る。しか
し、現実的なスパイがこんなバカみたいな道化を演じるだろうか? 自分はこの戦争の未来を知っているなどと。しかもその予言は、今回に関
しては的中した。連邦軍が最大最強の戦力を投入し、万全以上の万全を期して挑んだ一大決戦において、『それでも連邦は負ける』と言い切っ
たのだ。――そして、その通りになった。当てずっぽうがたまたま当たっただけとしても、うすら寒いものを感じる。常識と理解を超えた状況
に、カーク・ヤクネインは冷静さを失っていた。
「分かったよ」
 通信機が、静かな声でそう答えた。

0054創る名無しに見る名無し
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2011/12/02(金) 00:42:35.80ID:r7WWcKfU


「艦の安全を確保すればいいんだな? 了解した。これから前線に行ってこの宙域に向かう敵MSを迎撃する。この艦には一機も近づかせない。
捕虜はここに置いていく。回収してから撤退してくれ。俺は自力で追いつく。待たなくていい」
「…作戦は中止だといったはずだ」
「それでも聞いてもらう為に、戦ってくる。俺の命を賭けて頼む。あとは聞いてくれると信じるだけだ。――お願いします、カーク・ヤクネイ
ン少佐。俺もこの爺さんも、無駄死にはさせないでやってください」
 言って、翼の乗るガンダムが踵を返した。捕虜を放し、空いた手にビーム・ライフルを構える。
「往多翼、2.5《ツー・ポイント・ファイヴ》、行くぞ!」
 バックパックを噴かし、飛び立つ。
「…やつめ」
 見送り、カークは吐き捨てた。「…艦長、どうします?」クルーが訊いてくる。
「回収してやれ。ただし作業は迅速にな。すでに撤退命令は出ているんだ。ぼやぼやしてると置いてかれるぞ」
「了解」
 そのやり取りで、艦橋は緊迫した静寂から任務中の慌しい喧騒に戻った。各ブリッジクルーからそれぞれの部署へ指示が飛び、捕虜の回収と
艦の機関始動及び回頭が行われる。カークはそれを見ながら一人、艦長席で安堵のため息を吐いた。

0055創る名無しに見る名無し
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2011/12/02(金) 00:45:05.16ID:r7WWcKfU


 地獄のような戦場へと舞い戻るガンダムの中で、翼はなるべく呼吸を長く、深くして、平静を保とうとしていた。すでに本隊は潰走した。と
いうことはもはや正対しての砲雷撃戦ではなく、追撃戦、あるいは掃討戦が行われているということだ。逃げる敵を追いかけて仕留める戦なわ
けだが、それはつまり、翼がいる方向へ逃げてくる連邦艦がいなければ、敵には出会わないということになる。
 あるいは、追撃部隊に引っかからず、いきなり本陣にぶつかってしまうか。
「…来た」
 さらに神経を落ち着けるため、独り言を言ってみる。センサーに反応。一機。周囲に敵影は無し。ゆっくりとこちらに近づいてくる。こちら
に逃げてくる連邦艦は無かった。念のために哨戒に来た、というところだろう。それなら一機で行動しているのも説明はつく。今の連邦の手ひ
どい負け方では、最悪会敵してもMS一機でも問題無い、という考えがジオン側に生まれてもおかしくない。
 ガンダムを宙返りさせて減速し、さらに半回転して正面に向き直る。「よし…」さして意味は無い独り言を繰り返し、神経を落ち着かせる。
敵は依然、ゆっくりとこちらに近づいている。ガンダムとザクならガンダムの方がセンサー範囲は広い。まだこちらに気づいていないと考える
のが妥当だ。ならば取るべき戦法は一つ――即ち、先制攻撃。
 ビーム・ライフルを構え、狙いを定める。実体弾よりも遥かに速い弾速で奔る重粒子弾は、発射されて警報が鳴ってから回避することはまず
不可能だ。すでにロックオンされていることを認識した上で、敵の発射タイミングを予測して回避運動を起こすしかない。そして、地上での零
距離砲戦でならともかく、宇宙の空間機動戦闘でそれを実践するのはほぼ不可能だ。狙われているのも知らないのに、方角も分からない位置か
ら光となって迫る弾丸はかわせない。

0056創る名無しに見る名無し
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2011/12/02(金) 00:47:36.07ID:r7WWcKfU


「まずは一機――!」
 生き延びるために、迷いはとうに棄てた。そのためなら老人を捕虜にもするし、人だって殺す。非難するなら代わってくれ。口の中だけで叫
び、トリガーを引く。
「――え――!?」
 漆黒の宇宙を奔った光は、しかしそれ以上の何も生む事無く通り過ぎた。爆発は無い。敵影は先程までとは少しずれた位置で、同じような速
度で航行していた。だから一瞬、何が起きたのか分からなかった。
 理解したのは、それまで穏やかな速度で動いていた敵影が、明らかな戦闘速度でこちらに接近し始めてからだった。「かわされた……!?」
 あり得ない。そう思い、すぐにいや、と打ち消した。あり得るとしたらどうなるのか。発射を認識してからかわすのが不可能なのだから、敵
はこちらの発射タイミングを予測していたことになる。そんなことができるのか。相手が銃を構えていることすら認識できないような距離で。
それは予測ではなく、予知だ。翼の脳裏に、恐るべき一つの単語がよぎる。
「違う!」
 叫び、翼は敵の銃撃を側方回転機動《サイド・ロール》で回避した。戦闘速度で敵機が迫る。ビーム・ライフルは――まだ砲冷却が終わって
いない。翼は舌打ちし、頭部バルカンの斉射で牽制しつつ、猛スピードで通過する敵機を見送った。こういう時に、「盾は絶対要るだろ……!」
毒づく。翼が搭乗するガンダムは外見こそRX‐78‐2に酷似していたが、細部が違っていた。まず盾が無い。そしてバックパックのビーム
・サーベル・コネクターも無かった。ビーム・サーベルは使用時に腕部格納ラックより飛び出し、それをガンダムが腕に握り、ビームを発振し
て抜刀完了となる。
 そして左肩に、白地に映える黒く大きな文字で《2.5》とマーキングされていた。2.5ガンダム。RX-78-2.5という事だろう。
 そんなガンダム、翼は知らない。「MS、か…?」

0057創る名無しに見る名無し
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2011/12/02(金) 00:48:58.17ID:r7WWcKfU


「しかし、撃ってきたのなら味方ではあるまい。しかも連邦の識別信号を使っている。敵機と認定。交戦に入る」
「ニュータイプじゃ、ない…!」
 敵はこちらの動きを予知したのではない。おそらく敵は、こちらが狙いを定めた時にはすでにこちらの存在に気づいていたのだ。そして気づ
かない振りをしていた。こちらに先に一発撃たせ、二射目までのタイムラグで安全に射程内へ踏み込むために。
 その証拠に、翼の視界で鮮やかに宙返りし、こちらへマシンガンの銃口を向けるザクの片腕は、鮮やかな白で染められていた。翼はそのカラ
ーリングのザクを知っている。『赤い稲妻』と並び称されるジオン最強のパイロットの一人。『白狼』、シン・マツナガ。
 警報《アラート》と同時に回避運動を取った。火線がガンダムの脇を掠めていく。翼はビーム・ライフルを正面に構え直し、「うわ!?」そ
の腕が跳ね上がった。片腕を白く塗り固めたザクが、目の前でモノアイを閃かせる。踏み込まれた。「もらったぞ!」ザクの振り上げた手がヒ
ート・ホークを振り下ろす。「くそ!」翼はザクに前蹴りを食らわせ、紙一重でヒート・ホークの刃を避けた。ライフルを向ける。零距離。
「むぅん!」
「ぐああああっ!?」
 激しい衝撃と共に、翼のガンダムは吹き飛ばされた。ショルダー・タックル。「くそおおお!」回転しながら吹き飛ぶガンダムの姿勢制御を
しつつ、翼は敵をロックオンしようとする。ロックサイトが視界の端を右往左往する。ガンダムが高速で回転しているせいで、照星が視界に入
ってこない。「どうやら」

0058創る名無しに見る名無し
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2011/12/02(金) 00:50:07.69ID:r7WWcKfU


「私も対MS戦は初めてだが、案ずるより生むが易し、だな。君にはまだ、戦場で『白』を纏う資格は無いようだ」
「好きでやってるわけじゃ――!?」
 回転が収まる直前、全く違うベクトルにガンダムは弾き飛ばされた。しまった――その言葉さえ声に出せず、翼は操縦席の中でシェイクされ
る。何のことは無い。冷静さを失わなければ分かることだった。ガンダムにタックルをかけたマツナガ機は、そのままガンダムと一緒に飛んで
いたのだ。ガンダムの視界に映らぬように姿勢を低くし、そしてさらに回し蹴りの要領でガンダムを別方向へ弾き飛ばした。「さあ、終わりだ
!」
 敵弾警報と同時に、無数の衝撃がコクピットを襲う。ザク・マシンガンのフルオート斉射。翼は悲鳴を上げ、死を覚悟した。殺される。瞬間、
吹き上がる爆炎より速く生への執着が目を醒ます。「うああああああ! 畜生ォォォォォ!」スロットルを思い切り押し込んだ。ガンダムが最
大戦速で飛翔し、マシンガンの銃火から脱出する。「まだ動く……!?」宙返りしてマツナガ機を視界に収め、さらに加速する。ビーム・ライ
フル・ロックオン。「なめんな! なめんな! なめてんじゃねえぞクソオヤジがあああ!」トリガーを連打した。撃ち続ける。砲身未冷却警
告をトリガーボタンで黙らせ、撃ち続ける。
「無茶苦茶な……!」
「ブッ殺してやる! 俺を殺すならテメエが死ね!」

0059創る名無しに見る名無し
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2011/12/02(金) 00:52:10.82ID:r7WWcKfU


 零距離。回避したザクにビーム・サーベルを投げつける。「何と!?」命中。すぐにビームは消えて無くなるが、その刃はその一瞬の間に、
ザクの白い右肩口に深い刀傷をつけていた。「行けええええ!」さらにライフルを一発。避けたマツナガ機に踏み込み、拳を繰り出す。一度
AMBACを挟む蹴りよりも、推進力をそのまま利用できるストレートの方が宇宙戦では威力が出る。マツナガ機はこれを破損した右腕で受
け、そのまま一回転して左腕のヒート・ホークを振り下ろした。翼はビーム・ライフルを捨てて右腕にサーベルを構え、迫るザクの左腕を斬
り飛ばす。「死ね!」「させん!」返す刀で振り下ろされたサーベルをマツナガは後方宙返りでかわし、そこから急加速してガンダムの腹に
蹴りを食らわせた。翼の悲鳴と共にガンダムはまたも吹き飛ばされ、「――畜生がッ!」翼はバックパックを吹かして制動をかけて踏み止ま
り、
 マツナガ機は、その時すでに後退を始めていた。「ま、待ちやがれ!」「追いたければ、追うがいい」
「しかし、私に追いつこうと思ったら、ライフルを拾っている時間は無いぞ。そして追いついたとしても、その時はすでに我々の本陣が目の
前だ。その上で、追いたければそうするがいい」
「逃げるのか! ジオンの『白狼』ともあろうものが!」
「チャチな挑発には乗らんよ。また会おう、少年。君は生き残れれば、いいパイロットになるかもしれん」
 言い残し、マツナガ機はみるみる遠ざかっていった。センサー・ロスト。視界からも消え、翼とガンダムだけが虚空に取り残される。「……」
「……あ……?」
 放心するうちに、気がついた。
手が、震えている。
 震えはみるみる全身に回り、翼は思わず自分の身を抱いた。「……はは」
「は、はは……あははははははは……!」
 笑った。自分の身体を駆け巡る何かを、吐き出すように笑った。
 空しい高揚と笑いが去った後、涙が出た。

0060創る名無しに見る名無し
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2011/12/02(金) 00:53:59.53ID:r7WWcKfU


「さて、早速尋問を始めようか」
 カーク・ヤクネインは、事務的な口調でそう宣言した。手元の事前調書と目の前の老人を見比べる。「マルティン・プロホノウ中佐相当官殿、
か」
「私は当艦、サラミス級巡洋艦《イケイル》艦長、カーク・ヤクネイン少佐だ。貴官の尋問は私が直接担当する。貴官の身柄は南極条約に則っ
て丁重に扱われる。拷問をする気は無いから安心しろ」
「――ノーマルスーツで戦場を突っ切らされた老体をそのまま取調室に呼ぶのが、丁重な扱いかね?」
 老人の返答に、カークはふん、と鼻を鳴らした。どいつもこいつも――口の中だけで呟き、次の言葉を紡ぐ。
「ハードな取調べをするつもりは無い。貴方が私の質問に正確かつ誠実に回答すれば、この場はその数点の確認事項だけで終わる。時間も体力
も使わせる気は無い。――ただし、貴方の回答にその二つが認められなかった場合、ルナツーに戻って以降は専門の取調官がつきっきりで貴方
の調書作成を行う。貴方の最低限の人権は条約によって保証されるが、それはあくまで最低限だと思っておくことだ」
「脅迫に聞こえるな」
「警告だ。何度も言うが私はそこまでする気は無い。――お前達ジオンの隠し玉のおかげで、本艦までルナツーに逃げ込む羽目になった。がっ
くり来たよ。もう疲れた。さっさと終わらせたい。貴方だってここで黙秘だの偽証だの余計なことをしなければ、ルナツーに入ってからはしば
らくゆっくりできるんだ。ここは大人しく従った方が身のためだぞ」
「……ふん」

0061創る名無しに見る名無し
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2011/12/02(金) 00:55:21.71ID:r7WWcKfU


「前置きは終わりだ。始めよう。――まずは、貴官の指揮していた艦の名前だ」
「……ヨーツンヘイム」
 プロホノウの答えに、カークは片眉を上げて「ふむ」と小さく唸った。
「よかろう。では次だ。貴官が今回の戦闘で従事していた作戦の内容を、可能な限り詳細に答えてもらおう」
「……」
「……? どうした? 喋っていいぞ」
「たとえ虜囚の辱めを受けても、同じジオンの人間を売るような真似はできん」
「……最初に言ったな? 貴方がここで黙秘を続けるなら、私も余計な体力を使って追求する気は無い。ただルナツーに入港してからの貴方の
睡眠時間がクソ面白くも無い連中との回りくどい押し問答で削られるだけのことだ。最終確認だ。これ以上の質疑に応じる気は無いんだな?」
「……」
「結構。ならこれで終わりにしよう。ルナツーに入るまでほんの僅かだが、せいぜいその老体を休めておくがいい」
 そう言って、カークは資料一式を持ってさっさと席を立った。踵を返し、ドアへと歩く。
 そのドアが、開いた。「……」
「……貴様が何故ここにいる」
「取調べはどうしたんだよ」

0062創る名無しに見る名無し
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2011/12/02(金) 00:56:53.35ID:r7WWcKfU


「応じる気は無いそうだ。続きはルナツーだな。貴様の処遇も先送りだ」
「……冗談じゃない」
 吐き捨て、往多翼はカークを押しのけて取調室に入った。「おい」カークの声を無視し、マルティン・プロホノウの傍らに立つ。
 老人が、目だけで翼を見上げた。「……あのMSに乗っていた小僧か」
「話した方がいい。いや、話してください。拷問でもされたらどうするんです?」
「条約違反だな。そう思うほか無い」
「話せば、そんなことは無くなります。貴方だって、義理立てするほどジオンに肩入れしてるわけでも無いんでしょう?」
「くだらんな」
「――え?」
 プロホノウの眼が、正面から翼と、カークを見据えた。「調子に乗るなよ小僧共。確かにワシは軍なんぞにこれっぽっちも義理も情も無いが、
仲間を撃った人殺しのクソガキと、そのガキを使いっぱしりにして喜んでる若造なんぞは最早同じ人間とは思わん。負けて尻尾を振る男がどこ
におるか。拷問でも何でも好きにせい。ワシはお前らには従わん」
 がたん、と椅子が倒れる音がした。
 翼がプロホノウを殴った音は、その音にかき消された。「おい、イクタ! やめろ!」
「喋れよ」
「……早速実践か。思い切りのいい小僧だな」

0063創る名無しに見る名無し
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2011/12/02(金) 00:59:11.87ID:r7WWcKfU


「ああそうさ。どうせ俺はこいつらと同じ、戦争で自分の身を守ってるクソ野郎だよ。それがどうした? それの何が悪い? 他にどうすりゃ
よかったんだよ。途中でやめときゃよかったのか? 最初から尻尾巻いて逃げりゃよかった? それができりゃ苦労しねえよ。やりもしないで
偉そうに言うなよ。俺と同じ立場に立って、本当に殺されるかもしれないと肌で感じたら、俺みたいにならないって誰が断言できんだよ! そ
んな奴のことぁ知らねえよ!
 さあ喋れよ! 俺の身を守る為に、俺の言葉が真実だと証明する為に、お前が知ってることを洗いざらい喋れ!」
 言葉を吐き出す間も、翼はプロホノウを殴り、蹴り、圧し掛かってまた殴りつけた。「おい、やめろ! 誰かいないか! 畜生、飯になんか
行かせるんじゃなかった!」
「言えよ、オラ! お前は本当は軍人でも何でもないただの船乗りで、乗っていたのは第603技術試験中隊の連中だったって言えよ! 今回
の作戦はヨルムンガンドを使用しての超長距離砲撃作戦で、でも本隊からデータが届かなくて攻撃開始時刻に間に合わず、フタ開けてみたらそ
の作戦自体がそもそも当て馬で、ジオンの本命の秘密兵器はMSで、その存在を秘匿するためにヨルムンガンドは偽情報に利用されただけだっ
て、洗いざらい喋っちまえよ!」
 翼の言葉に、カークと、殴られているプロホノウさえ目を見開いた。
 翼の拳が止まり、プロホノウの上で崩れ落ちる。
「喋れよ……喋ってくれよ……あんたが喋ってくれないと、俺は殺されるんだよ……俺の言ってることが真実だって、価値があるんだってこの
世界の人間に認めさせないと、俺はこの世界じゃ生きていけないんだよ……頼むよ、艦長……あんたのプライドなんてどうでもいいから、俺を
助けると思って喋ってくれよ……俺にはこうするしかないんだよ……!」
 嗚咽と言葉を吐き出し、「うう、うああ、あああああああ――!」それでも足りず、翼は号泣した。
 初動加速と軌道修正を終えた《イケイル》は、魂が抜けて川を流れる流木のように、音も無くルナツーへと流れていった――


 機動戦士ガンダム ‐翼の往先−
 第三話 『蛇と少年』

0064創る名無しに見る名無し
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2011/12/02(金) 01:02:13.88ID:r7WWcKfU


次回予告

死肉と血の臭いを嗅ぎつけてやって来たのなら、それは野獣である。
人の呪いと憎しみの声を聞きつけてやって来たのなら、それは悪魔である。
――ならば、神や救世主は、何に呼ばれてやってくるのだろう。
そんな事は、誰も知らない。
なぜなら、そんなものが現実に現れたことなど一度も無いから。
野獣と悪魔が跋扈する地獄の島。死んだ眼をした獣達が、人を腐らす臭い息を吐きつける。
でも、君は力を持っているから、その歴史を否定することができる。
否定せよ。拒絶せよ。間違った歴史を修正せよ。
もっと分かりやすく言ってやろうか?
殺セ。殺セ。ブッ殺セ!
もう一度だけ言おう。
アノ人デナシノクソ野郎共ヲ、一人残ラズブッ殺セ!

次回、機動戦士ガンダム −翼の往先−
第一話 『悪魔召喚』

間違ッタ歴史ヲ修正シロ。
俺達ガコンナ死ニ方ヲスルナンテ、間違ッタ歴史ハ修正シロ!

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