「それじゃお買いものの件は店主が戻ってこなくても解決した訳だ。いつまでもオッサンに付き合っていないでも大丈夫だよ。申し訳なかったね」
 半ば自嘲気味に言って見せた。彼女に否定してもらいたい気持ちがあったからだ。まだ老けてはいない、と。
少しの間だったが、この娘には不思議な魅力があると思った。快活に笑い、そして笑顔をふりまく。見ているこちらも自然と明るくさせられるのだ。
「私の方こそお付き合いしてもらってごめんなさい。神谷さんのお仕事中にお邪魔してしまって」
 まだ資料の事を気にしているようだった。気配りもよくできる娘だと、私は心底感心した。
私も高校生の頃、彼女位の心遣いができていれば、今は思慮深い大人になれていただろうか。結婚生活も破たんせずにすんだのだろうか。
そして烏丸を一人にさせる事もなかったのかもしれない。
そんな事がふと頭をよぎった所為か、お節介だろうと思ったが、カレンダーの10月部分をそのままにするのも何だか可笑しかったので破り捨てる。
その行為に思ってもいなかったリアクションが返ってきた。
「え? なんで破るんですか?」
 きょとんとした彼女はまさに目が点だ。
「いや、いつまでも先月のにしておくのはどうかなって」
「もう〜! 先月じゃないですよ〜! ほら見てください! 10月って書いてる」
「うん、だから」
 彼女はもう一度きょとんとする。私も事情が呑み込めない。
「えっと、今月が11月だから、10月を破ったんだけど……」
 私も何か歯切れが悪い。それとともに、何かこのM山に来てから感じていた違和感が強烈に恐怖となって私を包み込んだ。
「かーみやさん、質問です。今日は何月何日でしょうかっ!?」
 彼女はまだ私が冗談を言っていると思っているのだろうか、少しおどけて私に問いかけた。私は11月20日だと答える。
彼女の3度目のきょとん顔を見る羽目になる事は予想どうりだった。
私はポケットから11月19日発送と書かれた督促状を取り出して、昨日届いたものだと説明する。