発泡酒を傾けながら、無言で続きを促す。
「それでそのゴッドの隣の席には、結構可愛い女子が座ってたらしいんだけど、授業中ゴッドが、何回もその女子に向けて『欲しいんだろう?』って囁き続けてたらしいの」
「段々紙一重の奴になってきたな……一部の男子に異様に人気があって、ほとんどの女子に嫌われるタイプか、その人。俺はそういうの好きだけど」
「どうかな。顔はかなり良かったから、女子にもそこまで嫌われてなかったと思う」
「羨ましい話だ」
顔で得をした経験など、二十年近い人生の中で皆無だ。
「しかもそのゴッドったら、学校に大量のエロ本を持ち込んでたの。バッグの中には凌辱系の十八禁漫画が詰め込まれてて、男子たちも引くような内容ばっかりだったって」
「そこまでやられると、ちょっと理解できないな……」
「でしょでしょ。で、これが極め付きなんだけど――」
間を置いて、彼女は続ける。
「彼、修学旅行で強姦疑惑が掛けられたの」

――大丈夫。
手鏡に映っているのは、わざとらしくない程度にメイクを施した自分の顔だ。人並みよりは可愛い……はずだ。男子に付き合ってくれと言われたことも、これまでに四回ある。
強気で押しかけてしまえばいい。悪い顔はされないはずだ。
既に室内には誰もいない。既に入浴も終えた。消灯までの少ない自由時間、みんなジャージ姿で気の合う友人や気になる異性を探して、ホテルを彷徨っているのだろう。
そして白石圭子もまた、部屋を後にする。男子たちの部屋があるのは、一つ上の六階だ。
カーペットの敷かれた廊下を進み、階段を上り、事前にチェックしておいた部屋の前に辿り着く。部屋番号の下に貼られている宿泊者名簿。その中に、長野晶の名前もある。
ドアノブを回し、恐る恐る開ける。靴置きにはごちゃごちゃと履き物が置かれていたが、人の気配はない。
「おじゃましまーす……」
返事はない。スリッパを脱いで部屋に上がった。和室には布団が敷かれているが、およそ綺麗とは言い難い敷き方である。ふざけて暴れでもしたのだろう。
誰もいないだろうと安心しかけていただけに、壁に背を預けて座ったまま静かな寝息を立てている長野を見つけた時には、声を上げそうになった。
足音を忍ばせて、長野のすぐ前でしゃがみ込む。隣の席にいる中性的な容姿をした男子の寝顔は、贔屓目抜きにしても綺麗だった。
癖のない黒髪が額に掛かっており、眉は細く整っている。瞼はしっかり閉じていて、通った鼻筋が静かな呼吸音を出していた。口が少しだけ開いているのが可愛い。