アフリカ南西部のサバンナ地帯。
小さな農村を見下ろす痩せこけた潅木が生えた丘の上に、一台の装甲戦闘車両が停車していた。
緑がかった茶褐色に塗られたその車両は、第二次世界大戦中にビュイック社で製造されたM18ヘルキ
ャット戦車駆逐車で、車体にはバルジの戦いで活躍した第705タンクデストロイヤー部隊の所属であ
ることを表示するマーキングが施されている。
76ミリ砲一門と50口径機関銃一挺を装備し、大砲と機関銃用の実弾をたっぷりと積んだこの小柄で
敏捷な殺戮マシンは、ゲキド共和国にダイヤモンド鉱山を持つポーランド系アメリカ人デイヴ・ネトラ
レスキが個人で所有する車両である。
旧式兵器のコレクターでもあるネトラレスキは、旧ユーゴスラヴィアから密輸船で運び出したM18を
3年かけてレストアし、英国で毎年7月に行われるウォー&ピース・ショウにも欠かさず参加していた。
現在は三日前に起こった内乱で焼き討ちにあった館をメイド達とともに脱出し、陸路国境を目指しての
逃避行の途中であった。
もともと政情不安定なゲキド共和国において、少数民族でありながら国政における主要機関のポストを
独占し、賄賂取り放題、汚職やり放題で私腹を肥やすミク族に対し、人口比で圧倒的多数を占めながら
ろくな仕事も無く、スラム街にたむろして貧困にあえぐネル族が不満を爆発させるのはある意味歴史的
必然ともいえる。
ミク族と商売上の付き合いがあったというだけで暴徒の標的にされる側としてはたまったものではな
いが。