私は両膝をついて、うつむくコトちゃんを少しだけ見上げる位置に体を構えた。
「コトちゃん、もうすっかり大人のマレーバクの色になったんだね」
リュックサックを抱きしめる腕に力が入ったのが、見て取れた。
「でもねコトちゃん、まだまだコトちゃんは子供なんだよ。お母さんに黙って出かけちゃいけない。分かるね?」
注意するのと叱るのと、その間くらいの強さで、コトちゃんに言い聞かせる。
「この一年でコトちゃんの周りで色んなことがあったの、おばちゃんも知ってる」
コトちゃんは昨年、父親を亡くした。その寂しさが癒える間もなく姉が引っ越し、そして最近、弟が産まれた。
そんな急激な環境の変化への戸惑いから、きっと発作的に飛び出して来たのだろう。
仮に今のコトちゃんが反抗期であったとしても、家出して母親を泣かせるような真似なんかできない子だ。
「お母さんに、寂しいって言えなかったんだね」
コトちゃんはリュックサックを更にぎゅっと抱きしめて、目をきゅっとつぶった。
「お姉ちゃんになったからって、我慢してたんだね」
そっと頭を撫でてあげると、コトちゃんは大きな粒の涙をこぼし、小さな声で泣いた。

残り2話あり明日に続きます