シンシンは竹をバキバキ裂きつつムシャムシャ噛みつつ、来日前夜の話をしてくれた。
あちらの飼育係のお一人が、シンシンのために脚色した、竹取物語を語ってくれたのだと。
そして来日後に(子供向けの絵本ではあるが)かぐや姫を読み、胸をうたれたのだと。

「かぐや姫は、おじいさんとおばあさんと、お別れしなければならなかったのよね…バキッ」
「そうだね」
「シャンシャンも同じだわ…バキバキッ」
「…そうだね」
「私もリーリーも同じだったわ…ムシャムシャ」
しばらく咀嚼して、そして一息ついて。シンシンは話を再開した。
「でもね、大人になったかぐや姫は幸せに暮らしたのよ」
言いながら、次の竹に手を伸ばして。
「大人になったかぐや姫はね、幸せの光る竹を見つけたのよ」
手にした竹に、いとおしむように頬ずりして。
「…シャンシャンが眠れない時に、そんなお話を聞かせてやってほしいの」
まあるい笑顔で、塞がれた窓の向こう側をしばらく見つめていた。