「仙女、ご飯は足りそうかい?」
「うん、いっぱい持たせてくれてありがとう」
「もうすぐ出発だよ。できるだけ手足を伸ばして、できるだけ楽な姿勢でね」
「あ、あのね」
「どうした?やっぱり窮屈?」
「ううん、そうじゃなくて…今までお世話してくれて、ありがとう。毎日毎日、ご飯とお掃除ありがとう」
「…立派なお母さんになって、帰っておいで」
「はい、行ってきます」

「はなむけに、僕の知っている日本の昔話をしてあげよう」
「日本の昔話?」
「そう。むかーしむかし、とっても仲良しの夫婦が、光り輝く竹を見つけました。その竹の中から、小さな小さな可愛い赤ちゃんが産まれました
 子どものいなかった夫婦は、赤ちゃんを大切に育てて、幸せに暮らしましたとさ」

「…不思議だけど、素敵なお話ね」
「そうだね、不思議だけど幸せなお話だね」
「日本に行ったら、私も光る竹に出会えるかな?」
「うん、きっとね」
「光る竹は美味しいかな?」
「…どうだろうか」

夕方、僕の仙女は比力とともに基地から旅立った。出国は明日になるのだけれど、僕は留守番だから見送りには行けない。
でも今夜までは、同じ月の下にいられる。満月を少しだけ過ぎた月だ。

竹取物語の本当の結末は、いずれ仙女は身をもって知る事になるだろう。
でもね、仙女。かぐや姫を帰す日が来ても、君は泣かなくていい。哀しまなくていい。
祖国へ帰ったかぐや姫を追って、いつかは君も帰ってくるのだから。