「学歴ロンダリング」には、1.「汚点を隠す」と 2.ステップアップ(箔をつける)という二つの意味あいがある。

1.通常の「学歴ロンダ」では汚点が目立たなくなるだけなのに、小谷野は汚点をロンダリング(洗濯)して完全削除することに成功している点は以前に述べたとおり。

2a.主な学問的業績が 『八犬伝綺想―英米文学と「南総里見八犬伝」』(1990)である人間にとっては、「カナダの大学に2年間留学」が箔をつける事になる。

2b.一般教養の「英語」を非常勤講師として教える男にとっては、「カナダの大学に2年間留学」が箔をつける事になる。

2c.だからこそ学歴が重視される売り出し中には「カナダの大学に2年間留学」を重点的に宣伝していた。「修士号を取った」「客員研究員」「研究生」のような形で留学したかのように書いていた。

名が売れた今では留学のことは書かないし、真実(英語ダメダメが原因で何の学位も取れなかった)を公表することもあろう。

> グラデュエット・アドヴァイザーは、・・・、私の答案が、時に質問に正しく答えておらず、英語もまずいということを指摘した。

2d.「留学失敗実記」をよく読めば、小谷野が留学する決心をしたのが、「ステップアップ」というような生やさしい心境からでなく、
東大での博士号に挫折した末に「九死に一生を得」ようとするような心境だったのが読み取れる。

> 私は、泣きたくなった。たしかに私は小説家になりたいと思ってはいた。だがその才能がなかったために、学者の道を選び、こうしてカナダまでやってきたのである。その道からさえ、私は蹴落とされようとしているのか?

結論: 日本で最も巧妙な「学歴ロンダリング」に成功したのは小谷野敦である。