S660は曲がらないと言ったら、誰もがきっと驚かれるでしょう。
エンジンが中央にあるミッドシップスポーツカーが曲がらない訳がないと。

だったら逆に伺います。
ではなぜS660には、アジャイルハンドリングアシストと呼ぶ、内側の車輪にブレーキをかけカーブで曲がり易くするシステムをわざわざ導入したのでしょう。
ミッドシップスポーツカーが曲がり易いのならば、そんな舌を噛みそうなシステムを搭載しなくても良いではないですか?

もう一度訊きます。
何故この様に複雑で非効率で高価なシステムを組み込んだのでしょうか?

その理由は簡単です。
前後荷重が45対55とフロント荷重が余りに軽くて、前輪のグリップが弱く、ハンドルを切った分だけ曲ってくれないないからです。

S660には前後異径の専用タイヤが採用されましたが、これも前述と同じ理由(思想)です。

すなわち、わざわざ余計なコストの掛る専用タイヤにした理由は、万一滑ったら制御不能に陥るため、とにかく滑らない様にするしかなかったからです。

例えばFR車でしたら、カーブで滑り易いのは後輪ですし、FF車ですと前輪だと分かっていますから、おのずと心構えもできます。

ところがS660の場合、どちら(荷重の軽い前輪 or 駆動の掛る後輪)が先に滑り出すのかも分からず、なお且つ滑り出しが唐突のため、万一滑ったら簡単には制御できないのです。

同じスポーツカーのトヨタ86との根本的な違いは、86は後輪が滑る事を前提に設計しているのに対して、S660 は滑らない事を前提にしているのです。