「S660」クルマの造りは完全に軽自動車の枠を超えたスポーツカーだ
S2000を超える捻れ剛性をもつ専用設計のボデー
サスペンショーンは、フロント・マクファーソンストラット式、リヤ・デュアルリンク式ストラットとし、
リヤには軽初の「アルミサブフレーム」を採用するというコスト度外視の作り込み

また、ハンドルを切りだすと内輪に軽くブレーキをかけるアジャイルハンドリングアシストを搭載。これによって狙った通りのスムーズなライントレースが可能

エンジンは自主規制のためノーマルでは高回転域のパワーが抑えられているのが唯一残念だが、これはチューンドロムで改善できる。
S07Aは改造次第では400Km/hオーバーのポテンシャルを秘めた世界最強の660CCエンジンなのでチューニングの伸びしろも頼もしい

またサウンドチューニングにも注意が払われており、マフラーの発するスポーツサウンドのほか、アクセルを戻した時に発するブローオフバルブ音をあえて消さずに聞かせるなどの演出もいい。
組み合わされるミッションの6速MTはシフトフィーリングにこだわり、ストロークやスッと吸い込まれる操作感に力を入れたという。また2速にWコーンシンクロ、3速にカーボンシンクロを採用する。
なんと「カーボンシンクロ」とは驚き!
シフトストロークが短すぎずちゃんとシンクロが効き、ギヤが噛み込む感触が手元に届く。ギヤ比も適切で、
トルクバンドを巧みに使えるうえ、ちゃんと高回転域の伸び感も感じられる。ストレスのないミッションだ
操作系もこだわっており、シートはホールド性の良い形状とし、ステアリングはホンダ最少径の350φステアリングを採用。
ペダルレイアウトもヒール&トーがやりやすいように配置されている。
さすがHONDA。スポーツカーの作りが上手いと関心する。

所詮軽自動車だろうと思って走り出したら、立派なコンパクト・スポーツカーだった。
アルトワークスに見られる軽自動車的な安っぽさ、華奢さが一切ない。ホンダは軽自動車のサイズで本格的なスポーツカーを作ったのだった。
説明では「痛快ハンドリングマシーン」などといったキャッチコピーが使われていたので、まあ、ギュインギュインとよく曲がるのだろうくらいに思っていたのだが、
全然違った。

ブレーキングでフロントに軽く荷重をかけたところからハンドルを切りだすと、アウト側のサスがスーッとストロークして沈み込むのだ。
アジャイルアシストが効いているので、荷重移動をほとんどしなくてもノーズがインを向いていくれるのだが、
セオリー通りにきちんとブレーキングし前輪に荷重をかけた状態からハンドルを切りだしてやるととても滑らかかつスムーズにクルマが向きを変えてくれる。
これは気持ちいい

旋回中はちゃんとアウト側前後のサスが沈み込み、適度なロールを見せながらピタリと姿勢を安定させ、コーナー立ち上がりでは195/55R16という軽自動車としては規格外のサイズのネオバが、
ガッチリと路面をとらえ、踏力なトラクションを発揮してくれる。

驚かされるのは、100km/hオーバーの速域で割と大胆にハンドルを切りだすようなスラロームしても、安定性が易々とは損なわれないことだ。
...というか、そういう走り方を試してみたが、フットワークも軽くスイスイと走り抜けてしまった。
コーナーリングGがなんと1.2G。はやスーパーカーの領域。これは凄い。

乱暴にハンドルを切りだすとVSA(=横滑り防止装置)が効くが、これも介入の仕方は強すぎずおせっかいでないのが良い。

S660はボディサイズと排気量こそ軽自動車規格だが、クルマの造りは完全に枠を超えたスポーツカーのそれだった。
そのことに衝撃を受けた。相当期待してハードルを上げて乗っても期待は裏切らないだろう。

一つだけ注文を付けるとすると、VSAのOFFボタンをつけてほしいということだ。
素晴らしく出来のいいエントリースポーツカーだからこそ、望めば、クルマが破たんをきたすところまで体験でき、
またコントロールする訓練ができることも、エントリースポーツカーの役割ではないかと思うからだ。