「本社の新築は危ない!」が鉄板法則なわけ
2017/07/06
ジャーナリスト 高嶋 健夫氏
http://bizgate.nikkei.co.jp/sp/article/138924918.html
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO19445450R30C17A7000000?channel=DF220620160333
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 「しくじる会社」と「伸びる会社」はどこが違うのか。35年以上の取材歴、会った社長も約1000人。経験豊富な企業ウオッチャーだから語れる、財務データではわからない会社の見分け方を紹介します。3回目は「本社の新築は危ない!」が鉄板法則な理由とは。

立派すぎる新築オフィスに透ける本音

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本社の新築は危ない

 本社オフィス、支社・営業所、工場、倉庫・物流センター、店舗といった建物や設備は、「会社の内情」を問わず語りで、ときには人の口よりも雄弁に話してくれます。
「現場を見る」は情報収集の基本中の基本。なにも刑事や探偵、事件記者だけの専売特許ではありません。企業取材も同じです。
私は応接室でのインタビュー以上にセンサーの感度を上げて、「会社の現場」のあちらこちらに目を凝らします。

 まずは本社をチェックするツボから。これにも不動の鉄板法則があります。企業ウォッチングの専門家でこれを指摘しない人はまずいません。それは、

 「本社が新しくなった会社は要注意」です。

 主に中堅・中小企業の場合ですが、古い社屋を建て替えたり、別の場所にある賃貸オフィスビルに移転したりするケースでは、新本社がどのような姿になるか、固唾を飲んで見極めることになります。
なかでも、一流企業、有名企業がたくさん入居している都心の超高層ビルに本社を移すような場合は、それだけで一斉に警戒アラームが鳴り出します。

 理由は「本社はおカネを生まない設備」だからです。立派過ぎる新社屋や華やか過ぎる新オフィスは、「売り上げ増に直接的に貢献しないところに、必要以上におカネをかけているのではないか」と疑いの目で見られるのです。

 これが工場や物流センター、店舗網などなら、純粋に「設備投資」の視点でチェックされるだけですが、こと本社だけは別物。新設・移転計画の裏側に潜む社長さんの腹の底にまでチェックのメスが入ることになります。
要するに、高級外車の鉄板法則と同じ理屈で、「見栄っ張りで派手好きなんじゃない?」「スター軍団の仲間入りがしたいの?」と、社長としての資質や経営姿勢が問われることになるのです。

 よく聞くのが、こんな反論です。
「そうはいっても、本社は会社の顔。本社にもお客様はいらっしゃるわけだし、いつまでも田舎の汚いオフィスでは、お客様にもご不便やご迷惑をおかけすることになる。一等地に進出すればイメージアップになるし、ひいては会社の信用度も高まるんじゃないですか」

 私に言わせれば、こんなものはただの言い訳。御社を訪ねる人は、御社と取引したいから行くのであって、「取引する価値がある会社」と判断すれば、遠方だろうと、社屋がボロだろうと、足繁く通います。
もちろん、イメージ戦略は大切ですが、それも「費用対効果」との見合い。見晴らしが良くても、コスパの悪いオフィスなんて、最悪です。

 東京の郊外部に本社兼工場のある中堅消費財メーカーで、過去30年ほどの間に「業績急伸→都心に本社移転→業績悪化→元の場所に撤収」を2回繰り返した実例を知っています。
その社長さんは2代目で、ナイスガイではありますが、お坊ちゃん育ちの印象はぬぐえません。さすがに今は創業の地に腰を落ち着かせているようで、安心しています。