コロナ禍が、もう1つの禍を招いている。

家族が寝静まった深夜。東京都文京区の閑静な住宅街に住むAさんは嫌な予感に苛まれていた。

誰もいないはずのキッチンからカサカサと音がする。まさか……でもアイツが活発になるのは暖かくなってから。冬の名残のあるこの時期はまだ早いのでは?

 頭の中ではそう否定しても、耳に残るカサカサ音。朝になってキッチンに足を踏み入れてもなんだか憂鬱だ。

ドラッグストアへ殺虫剤を買いに行くと、店員が「最近は、殺虫剤が効かないタイプもいるんスよね」と怖いことを言う。

Aさんの予感は的中していた。寒さに弱いアイツ=ゴキブリが活発に動いていたのだ。

 虫ケア用品メーカー最大手のアース製薬に、ゴキブリの生態を知り尽くす女性がいる。実験用に害虫を育て管理する飼育員・有吉立さんが、こう話す。

「通常、ゴキブリは寒さに弱いため、冬の間は活動量が低下。おとなしく春を待つ習性なのですが、今年はコロナ禍でわれわれもリモートワークが増え、外出の自粛もあり、在宅時間が増えましたよね。

その間、自宅は暖房や加湿器で、室温25℃前後、湿度は40〜50%にキープされ、人はもちろんゴキブリにとっても快適な環境が続いてしまった」

 自宅での食事が増えたことで生ゴミも多く出る。ゴキブリたちも“食事”に困らない。まさに彼らにだけ“春が来た”状態なのだ。

 この状況は数字にも表れている。害虫駆除サービスなど生活に関する出張・訪問サービスを提供する「くらしのマーケット」では、昨夏1か月間のゴキブリ駆除依頼が前年同月比で238%も増加したという。都内のある駆除業者はこう語る。

「夏に限った話じゃありませんよ。ゴキブリ駆除バブルは続いています。この冬もやつらは“休眠”することなく活発に動いていますから、駆除の依頼は安定してあります。

今後、春になるにつれ、ますますやつらの姿を見ることになる。ゴキブリの恐怖はこれからが本番でしょう」

 害虫駆除業者を困らせるゴキブリも増えている。駆除業者フリーマンの福永隆さんが言う。

「殺虫剤などが効かないゴキブリが増えているんです。ゴキブリは学習・進化するので、だいたい全体の3%くらいは毒素が効きません。

彼らにとってすみやすい環境の変化になり、さらに生命力を上げ、毒素が効かない強化型と呼ばれるタイプが増える可能性も否定できません。