「弁護士にはフェミニズムの感覚に欠けた人が多い」と言うと意外だろうか。
離婚裁判で、共働きなのに妻の帰宅時間が遅いと非難したり、「女の弁護士は怖い」
などと酒席で盛り上がる弁護士がいるくらいだから驚くことでもないのかもしれない
が、正直、ため息をつくことは多い。
 1980年代の男女雇用機会均等法改正をピークに、最近ではフェミニズムは勢いをなくし
、「少子化を招き、家族の解体を促す」と考える保守派が巻き返している印象がある。
そんな今、ジェンダー(社会/文化的な性のあり方)研究の第一人者である著者が、
自身に多大な影響を与えた11人の作家や学者を「読者にも読んでもらいたい」と、改めて論じたのが本書だ。
 20世紀最大の批評家E.サイード(1935-2003 エルサレム生まれの評論家で、元コ
ロンビア大学教授)のオリエンタリズム理論を、著者がジェンダーに当てはめて分析
する箇所が印象的だ。サイードは当時の“東洋”研究が「東洋についての“西洋の”
思考様式」にすぎないことを批判し、概念を180度覆した。
 西洋は東洋にエキゾチックさを求め、知性や思想を持つことは認めない。まさに、
それは男と女の関係に読み替えられる。あくまで男性が“主体”で、女性が“客体”
である限り、その本質は権力関係にほかならない。「女性は偉大だよ」などと妙に
女性を褒めたたえる男性に感じる違和感はここにあったのか、と納得できる。
「中絶の自由」に関する記述も興味深い。ウーマンリブ(女性解放運動)のおかげ
で現在の日本では事実上、中絶を選択できるが、実はいまだに女性には法的な権利
がない。堕胎罪(刑法212条)が存在し、優生保護法上の「経済的理由」という例外
規定の拡張解釈によって中絶できるだけ。
 女性が自分自身の体をどうするか決めるのは国なのだ。また、ピルが日本に紹介
されてから20年も販売が許可されず、一部解禁後も医師の処方箋が必要という厳
しさだったのに対し、バイアグラの解禁までの期間はおよそ3か月。〈男の性は肯
定され、女の性はコントロールされる〉という言葉がずっしりと響く。 フェミニ
ズムを学ぶ意味は、“無自覚”に気づく点にあるとつくづく実感する。「思考
停止するな」という著者の熱いメッセージを一人でも多くの人に受け取ってほしい。
※女性セブン2013年10月3日号

http://news.mynavi.jp/news/2013/09/22/064/