「最後の救世主が来たるという”海”……もしや星の海のことなのではありませんか」
アクィナス軍務官の思いつきは、メシアン教国の幹部たちを瞠目させた。
「なるほど……今の世に相応しき”海”は、一部の惑星にしかない水の海ではなく」
「星海、すなわち宇宙のことであると、そういうことか」
ボード軍務官とアルガラッハ軍務官が、得心がいったとばかりにうなずきあう。
「ならばどなたが相応しき救世主であるか……やはり連邦元帥たるブラディッシュ閣下でありましょう」
ここぞとばかりに口を挟むのはオズワルド軍務官だ。
「否。星の海であるとて、べジャスヌィフ大聖堂の聖女として名高きリヨンヌ様であれば問題など」
言い返すベネディクト軍務官。だが、救世主来星海論に傾いた場の空気には、いささか無理に過ぎた。
多くの命を救ったとて、宇宙では実績がない、と言われれば押し黙るしかない。

やはりブラディッシュ元帥なのか。
だが……あまりにも俗世間に浸かってはいないか。救世主たりうるカリスマを持っているか。
いまさら聖女の時代でもないかもしれないが、仰ぐに足る人物だろうか。
誰もが疑問を持ちつつも、さしたる対案もなく流れが決まろうとした時、今までの沈黙を破った軍務官がいた。
「一人いる。宇宙で実績があり、それでいて軍から身を退かれた、カリスマのある女性が」
その人物、イスラフィル軍務官は、集まる皆の視線にこたえて続けた。

「連邦軍退役少将。元第五艦隊司令。ダラムサーラー・カラカラム軍務官」
後世、歴史家はこう言う。
”聖女の時代”は、正月の軍務官サロンで始まった、と。