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 近くの岩田忠義(ただよし)さん(73)夫婦も内藤さんたちのバイクに助けられた。軒下まで水が迫り、夫婦で屋根の上に避難した。昼過ぎに119番や110番で救助を頼んだが、助けは来なかった。←★注目
ヘリが近くを飛ぶ度にタオルを巻いたさおを振って助けを求めた。
 数時間すると「ブーン」と鈍い音が響いた。「もしかして、やっと助けが来たのか」。近づいてきたのは水上バイク。
内藤さんから「子どもを先に運ばせてな。絶対戻るけん、絶対間に合うけん、頑張って」と励まされ、ほっとした。
 しばらくして、約束通り内藤さんは来た。バイクに乗りながら「じいちゃん、命がけで助けたんじゃけ、長生きしてよ。絶対で」と肩をたたかれた。
 うれしくて、涙が出た。
 「内藤さんは、町のヒーロー。命の恩人じゃ」

■「立て直したい」炊き出しも
屋根の上に3時間以上立ち続けて足が動かなくなった高齢夫婦にも出会った。水は屋根の上に達していた。疲れ切った顔で「もうだめじゃ。わしらええけ、他行ったげて」と言った。
「いや、絶対助けてやる」。水上バイクをロープで固定し、屋根まで歩み寄り、水につかりながらも、夫婦が呼吸できるように高めに抱きかかえて乗せた。
日が暮れると、住民はライトを振ったり笛を鳴らしたりして存在を知らせていた。夜中には水深が浅くなり、水上バイクの底が何かにぶつかって何度も転倒したが、
起き上がって救助を続け、午前4時までに計120人ほどを運んだ。途中から、避難先の森泉寺には内藤さんの後輩数人が集まり、バイクから住民を降ろす作業などを手伝った。
 森泉寺によると、7〜8日に100人ほどが境内に身を寄せた。寺以外にも、希望する場所まで送られた人が20人ほどいた。

 水上バイクは傷だらけになった。燃料は何度も補充した。必死に救助を続け、最後は全身がつって動けなくなった。
後日、避難所で炊き出しのボランティアをしていると、救助した高齢者から次々と感謝の声をかけられた。「それだけで、やってよかったと思った」

 内藤さんに母親を救助してもらった上森さんも町に駆けつけていた。7日昼過ぎから深夜まで釣り用のボートで救出にあたり、約100人を避難させた。
 2人は現在も避難所での炊き出しや知人の家や店舗の片付けを手伝っている。実家の片付けも残っているが、
「自分ができることを続けて真備町を立て直していきたい」と内藤さん。被災地を駆け回っている。