鏡石町五斗蒔(ごとまき)町の水田地帯。コメ農家の和田和久(57)は台風一過の18日、
豊かな実りを知らせる季節の風景を静かに見つめていた。自宅に戻り、出荷準備を進める。

浜通りにある原子力発電所が事故を起こして以来、コメを詰める段ボールに産地名は印刷していない。

かつては「福島産」という3文字が誇りだったのに。
このコメ、一体誰が食べてくれるのだろうか。うつろな目は浮かない心を物語っていた。

販売額は原発事故発生前年の2010年と比べて5〜6割程度となった。
水稲だけで十分に生計が成り立っていた事故前が遠い昔のようだ。
当面の生活費として、泣く泣く300万円を借りた時もある。

減収分を穴埋めしようと、タマネギと花卉(かき)の栽培を始めた。
それでも、心にはぽっかりと、いつふさがるともしれない大きな穴があいたままだ。
コメ農家の俺が何でタマネギを作っているんだろう。その疑問と怒りをどこに向ければいいのか。

風評。辞書には「世間の評判、うわさ」とある。
2011年3月に起きた東京電力福島第一原発事故以来、県産農産物は一部で評判を落とし、
農家は根拠のないうわさに悩まされ続けてきた。
厳しい検査で安全性を担保しているにもかかわらず、風評はなぜ消えないのか。
解決の糸口を求め、生産・流通の現場を追う。
http://www.minpo.jp/news/detail/2017091945195