9月入学制導入 前川氏「今じゃない」、尾木ママ「踏み出す時」〈2〉

◎「教育復興」踏み出す時 教育評論家 尾木直樹氏

 本年度を来年8月まで延長し、「9月入学」「9月新学期」を実現すべきだ。
現行制度で突き進んだ場合、最も被害を受けるのは大学入試を控える高校3年生。特に地方は学力低下が著しく、このままでは試験の公平性が担保できない。

 一斉休校から約1週間でオンライン授業に切り替えた首都圏の私立高と違い、地方の公立高はいまだにプリント配布が続く。
来年1月の大学入学共通テストを待たずに、勝負は決したと言っていい。
全国高校総合体育大会(インターハイ)や修学旅行の機会も奪い、3月に無理やり卒業させるのは教育虐待だろう。

 卒業を延ばせば授業料がかさみ家庭の負担が増すとの懸念があるが、資金面の課題は「超」が付くほど簡単だ。
教育を無償化すれば済む。欧州の大学は授業料が無料で、アルバイトで学費を稼ぐ学生がいる日本のような国は珍しい。

 就職も4月にこだわらず、通年採用にしてはどうか。早く稼ぎたい学生は卒業を待たずに4月から働き、8月の卒業式だけ有給休暇を取って出席すればいい。
実際、大学4年生の後半は講義を欠席し、内定先の研修を優先する事例は多い。

 そもそも習熟度にかかわらず、1年が過ぎれば自動的に学年が上がる「玉突き進級」を疑いたい。
経済協力開発機構(OECD)の調査では、大学入学の年齢は日本が平均18歳なのに対し、先進35カ国の平均は22歳。
他国では高校卒業後、世界旅行やインターンシップを経て自分の進む道を見つけてから進学するのが常識だ。

 偏差値の高い大学へ進学し、ブランド力がある企業に就職する風潮は正しいのか。
就職後、約3割の新入社員が「自分には向いていない」とギャップを感じ、3年以内に離職する。
「今の若者はこらえ性がない」と言われるが、このような課題を抱えたままの社会の流れに疑問を持つべきだ。

 9月入学はグローバル化にも適応する。留学のハードルが下がるほか、海外から優秀な学生を呼び込める
国内外で大学教授の交換もしやすくなり、学生が幅広く恩恵を享受できる。
改革はたやすくないが、以前の様式に戻る「復旧」ではなく、「教育の復興」に踏み出すべき時だろう。