徴用工判決から1年、日本に渦巻く「嫌韓」の原点
重村智計(東京通信大教授)
https://ironna.jp/article/13689
 筆者は、1975年に高麗(こうらい)大に留学してから40年以上も韓国・北朝鮮問題を取材し、多くの本や論文を
執筆してきた。だから、韓国人と朝鮮人に好意を抱いているし、尊敬すべき多くの韓国人にも助けられてきた。市井の
韓国人は素朴で親切だが、政治や運動に携わる人たちは平気で嘘をつく。
 徴用工問題が話題に上るたび、筆者は一人の若者を思い出す。三十数年前、米スタンフォード大のキャンパスで
出会った李隆(イ・ヨン)君だ。山口県出身の在日韓国人だが、韓国語は使えない。
 人を「在日の敵か味方か」見極める目つきがギラギラしていたのが印象的だった。でも、韓国人留学生と韓国語で
自由に話す様子を認めたのか、警戒を解いた李君はすぐに筆者と打ち溶け、ある日こんなことを話してくれた。
「在日が強制連行で日本に来たのは嘘ですよ。オヤジに日本人に絶対に話すなと言われた」
 李君の父親は戦前徴用工として八幡製鉄所(現日本製鉄)で働かされたが、毎月給与はきちんともらえたし、仕事上
で差別もいじめもなかった。それに、終戦で韓国に帰る際には退職金も渡されたし、日本人工員たちも送別会を開いて、
餞別(せんべつ)までくれたという。
 ところが、韓国に帰国したものの、仕事がなく食べていけなくなって、再び日本に密航したのであった。「日本人に
話すな。強制連行と思い込んでいるから、本当の話をするな」と李君に念押ししたのも無理もない。
 李君の父親のような証言は長きにわたって封印されてきた。こうした証言収集に取り組んだ学者も攻撃に遭い、
存在をも否定されてしまった。

(続く)