トンネル崩落 老朽建造物の総点検が急務だ(12月3日付・読売社説)

日曜の高速道路で大惨事が起きた。
中央自動車道の笹子トンネル(山梨県)で大規模な崩落が発生し、車が次々と下敷きになった。車両火災も
引き起こした。
厚さ8センチほどのコンクリート製の天井板が突然、110メートルにわたって崩れ落ちたという。下敷き
になった車内からは、複数の遺体が見つかった。自力で逃げ出した人たちも、やけどなどを負った。
「雪崩のように崩れてきた」と語る人もいた。トンネル事故の恐ろしさに慄然とする。
何人かがトンネル内に取り残されている可能性もある。警察と消防は二次災害に留意しつつ、救出に全力を
挙げてもらいたい。
中央道は、東名高速と並び、首都圏と関西圏を結ぶ大動脈だ。全長4・7キロの笹子トンネルは1977年
に開通した。
管理する中日本高速道路が9月に目視などの点検を行ったが、換気装置として、トンネル上部からつり下げ
られている天井板に異常は見つからなかったという。
経年劣化はなかったのか。警察と国土交通省は崩落原因を徹底的に解明する必要がある。保守・点検のあり
方の検証も不可欠だ。
同じ構造のトンネルは全国の高速道路に10か所以上ある。点検を急がねばならない。
20人が犠牲になった96年の北海道・豊浜トンネル崩落事故を契機に、全国のトンネルの一斉点検が行わ
れた。その教訓は生かされなかったのだろうか。
高度経済成長期の70年代以降、社会資本整備のための公共事業費が急増した。
この時代に造られた高速道路などの建造物は現在、老朽化が目立ち、危険性が指摘されている。耐用年数を
迎えているコンクリートの劣化は深刻だ。
国交省によると、高速道路だけでも、補修を要するトンネルや高架橋などの損傷が、2011年に約55万
5000か所で確認された。05年の約4万7000か所に比べ10倍以上にも増えている。
大地震に備える防災上の観点からも、まずは老朽建造物の総点検が急務である。
厳しい財政事情の中、公共事業費の削減を求める声は根強い。確かに、野放図な投資は抑制する必要がある
だろう。
だが、危険な建造物を放置すれば、国民生活の安全が脅かされる。老朽施設の改修には、優先的に予算を投
じるべきだ。
衆院選後の新政権が取り組むべき重要な課題である。
(2012年12月3日01時30分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20121202-OYT1T00995.htm