生活保護は、他に生きる方法がないときの最後の安全網だ。それに対する視線が厳しい。
来年度予算の要求にあたり、政府は「最大限の効率化」を図るように名指しした。
だが、単に削ろうとすれば、かつての「母子加算廃止」のように、声を上げにくい人にし
わ寄せがいく。自治体が窓口で申請を受け付けない、そんなことが起きるおそれもある。
保護費が大きくなるのを本気で防ぐには、貧困におちいった人の自立を助ける、地道な努
力しかない。そこに、予算をはじめ、社会の資源が適切に投じられるべきだ。
生活保護をめぐる社会の雰囲気は、特定の出来事をきっかけに大きく揺れる。
2007年に北九州市で、生活保護が打ち切りになった男性が「おにぎり食べたい」と書
き残して餓死した。この時は、行政のあり方が指弾された。
今年は、タレントの母親が保護を受けていたことが引き金となり、「受給者バッシング」
が強まっている。
全体からみた金額は小さくとも、不正受給は人々の怒りを増幅する。資産や所得、医療の
適切さの点検は必要だ。
だが、いま一番問題なのは、雇用の悪化により、「まだ若くて働けるが、生活に困ってい
る人」が増えていることだ。
「働けるから」といって放っておけば、心身を病んでしまうことも多い。「誰が見ても働
けない」状態になってから生活保護に入れても、今度はそこから働けるようになるまでの
時間がかかる。悪循環だ。
困っている人を「救うかどうか」の判断は、個人の価値観にもよるので、線引きが難しい。
だが「自立を支援する」ことへの異論はないはずだ。
早めに、ていねいに対策をとれば費用対効果は高い。
たとえば横浜市では昨年度、約2億円かけて就労支援の専門員を48人置いた。その結果、
2千人近くが職に就き、保護費を8億5千万円減らした。
経済効果の不明な道路をつくるより、よほど役に立つ。
自治体が「働ける人は、早期に自立してもらえる」という自信を持ち、生活保護を「入り
やすく、出やすい」制度にする。そんな好循環をつくりたい。
問題は、こうした自立支援の事業を支える財源が不安定なことだ。政府はいま、来年から
7カ年の計画で「生活支援戦略」を考えている。公共事業で「国土強靱(きょうじん)化」
するより、ずっとまっとうで、社会を強くするお金の使い方だろう。

http://digital.asahi.com/articles/TKY201208250567.html