信濃毎日新聞 社説  2008年1月5日(土)

成熟の社会へ(4) 自ら考え選び取ろう
http://www.shinmai.co.jp/news/20080105/KT080104ETI090004000022.htm

 ことしは県内でも、出産の場所がなかなか見つからない“お産難民”が現実となるかもしれない。
 須坂市の県立須坂病院が4月以降の出産の受け入れを休止する。須坂上高井地区でお産ができる病院はなくなってしまう。
 上田小県地区はより深刻である。上田市の国立病院機構長野病院から、産科医4人が派遣元の大学に引き揚げられる。
既に新規の受け入れを休止し、夏以降はゼロになる。
 残る医療機関は上田市産院と民間の2病院。200-300人は地域外で出産の場を探さざるを得ない。
 出産を支える医療が崩れつつある。全国的な医師不足で、他の診療科も無縁ではない。今まで通りの医療態勢は
期待できない現実に、私たちは直面している。
 「医師が足りない状況を知るほど、お願いしているだけでは解決できないことが分かったんです」
 NPO法人「へそのお」の代表で、6人の子どもを育てる倉石知恵美さん。地域の母親らと須坂病院の産科医確保を求める署名を行い、
どうしようもない現実にぶつかった。

 <住民ができることは>
 困ったというだけでなく、住民にできることは何か、と考えたのが倉石さんたちの底力である。昨年11月から
「いのちについての学習会」を開き、地域の集会などで座談会も開く。テーマはお産とは限らない。終末期医療にも踏み込む。
 急病でもないのに時間外に病院へ行くようなかかり方が、勤務医の負担を増やしていたのでは−。病院で生まれて、病院のベッドで死ぬ。
人生の最初から最後まで「先生にお任せ」でいいのだろうか−。
 私はこう生きたい、と考えて必要な医療を選ぶようになれば、地域の病院を支えることができるだろう。地域のきずなを深めて
知恵を共有すれば、病院に行かずに解決できる問題もあるはずだ。そんな思いを、倉石さんたちは強くする。