【北海道】2006年6月17日(土) (2)
B型肝炎訴訟*国の責任を明確にした

 行政の責任を明確に指摘した、きわめて妥当な判決だろう。
 B型肝炎に感染したのは集団予防接種が原因だとする道内の患者ら五人が、国に損害賠償を求めた訴訟の上告
審で、最高裁はこの主張を全面的に認め、原告の勝訴が確定した。
 二審の札幌高裁判決は、原告のうち二人について、損害賠償を請求できる期間を過ぎたとして、請求を退けた。
最高裁は今回、五人全員への賠償を国に命じ、原告の完全勝利となった。
 国は、この判断を厳粛に受け止め、救済策を急ぐ必要がある。
 原告らは幼いころ、予防接種を受け、ウイルスに侵された。中には二十五回も接種を受けた人がいる。
 このため国は「どの接種で感染したかが特定されていない」などと主張、因果関係の否定に努めてきた。
 だが最高裁は、感染の原因は予防接種以外に考えられないと指摘、国に責任があると断じた。
 一方、損害賠償請求権は、不法行為の時から二十年で消滅する。では起算点はいつか。最高裁は、潜伏期間
などを考慮して起算点を「発症」と判断。これより早い「最後の接種」とした高裁判決を変更し、不利益となる原告を
救済した。
 いずれも原告の被害の大きさを考慮した、妥当な内容といえよう。この立場から見れば、国の上告自体が、解決を
いたずらに引き延ばす不当なものだったといえるのではないか。
 集団予防接種の「被害者」は、原告の五人だけではない。日本の肝炎患者は、B型とC型を合わせ三百万人以上
とされる。予防接種は、全国にウイルスが広がるひとつの原因となった。
 最高裁判決は、同じ注射器を何人もが使えばウイルスが広がる恐れがあることが、遅くとも一九五一年には知られて
いたと指摘した。
 しかし、旧厚生省が注射針を一回ごとに取り換えるよう通達を出したのは五八年だ。接種の現場に徹底されるまで、
さらに長い時間がかかった。
 国は、薬害エイズやアスベスト(石綿)健康被害などの問題で、危険性を知りながら対策を怠る「不作為」があったと
厳しく批判されてきた。
 集団予防接種による肝炎感染でも、同じことが繰り返されていたのだ。
 国には、救済を進める大きな責任がある。患者団体は、医療費の公費負担や保険適用範囲の拡大、障害年金の
認定基準緩和などを求めている。こうした声に十分耳を傾けてほしい。
 肝炎は、日常生活で感染することはない。だが、患者が就職や施設入居などを拒否されることがある。偏見・差別を
なくす対策も欠かせない。
 併せて、感染に気づいていない人たちのために、検査の機会を増やし、早期発見への努力をしてほしい。
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