田村さんの後悔
プー君は保健所で殺処分される一歩手前で動物愛護団体に救出され、田村さんの元に来た。団体スタッフの「殺処分直前
まで行った子は、新しい飼い主に深い恩義を感じている」という言葉が真実かはわからないが、プー君はいつもどこか遠
慮しているような、控え目な猫だった。
田村さんはそんなプー君がいじらしくて、文字通りわが子のように愛した。「少しでも苦しませたくなかった。でも病
気がわからないがゆえに、痛い・辛い・怖い思いをさせてしまった」

■ 獣医にも得手不得手がある
 田村さんは後悔する。そしてこうも言う。「最初から高度な検査のできる病院に行っていれば、同じ寿命であっても苦
しめず、緩和ケアができたのではないか。でも山ほどある動物病院のどれを選べばよいのか、飼い主にはまったくわから
ない。だからカリスマという触れ込みを信じてあの病院に行ったのだが……」
 田村さんの指摘はもっともだ。動物病院は全国に1万1486軒(2015年)あるが、その大半は犬・猫問わず、内科でも外科
でも歯科でも診る総合病院型の立て付けにしている。だが人間の医療において万能な医師がいないように、獣医にも得手
不得手がある。重篤な傷病となれば、ふさわしい病院・獣医を早急に求める必要がある。
週刊東洋経済は9月5日発売号で『みんなペットに悩んでいる』を特集。今回、全国の動物病院にアンケート調査(無作為
抽出方式、調査票の発送総数1300)を実施し、「高度・専門医療を求める飼い主に、自信を持って紹介できる動物病院は
どこか」と聞いた。有効回答87件をもとに「プロが本当に信頼する動物病院」としてランキングを掲載した。 トップに
選ばれたのは、日本大学動物病院(神奈川県藤沢市)。推薦した獣医からは「常に医療の進化を感じる」「実際に診療を受
けた飼い主からの評価が高い」といったコメントが寄せられた。
 中山智宏院長は「ここには死を覚悟して来院する飼い主が多く、実際に亡くなることも少なくない。だからこそ少なく
とも、『できることはすべてしてあげた』と飼い主に感じてもらえるように心掛けている」という。獣医はペットの体だ
けでなく、飼い主の心を診る存在でもあるのだ。
 ランキングには興味深いことに、前述の有名病院を含め、メディアにたびたび取り上げられるような病院は必ずしも
ランクインしていない。回答数は限定的ながら、愛犬家、愛猫家と普段よく接している獣医の声は、動物病院の知られ
ざる実態を映している。