しばしその場で、観客の反応をうかがってみた。 「なんだ、これ」、「大作先生だ」、「描いたのは学会の人?」……。 反応は様々だが、誰もが必ず足を止める。作品が高い位置に掛けられているため、
見上げる観客の上に池田氏の巨大な顔が覆いかぶさってくるようで、その威圧感は凄まじい。 会場には、観客が絵を見た感想を記録するノートも置かれていた。 〈お前、潰されるぞ〉、〈日本のタブーによくツッコんだ。体を張ってこそ芸術〉、
〈お前、頭悪すぎ、最後に飾る芸大の質も地に落ちた〉、〈月夜の夜道は後ろを向いて歩くよう〉。

なぜこんな”特殊な”モチーフを選んだのか。作者の渡辺篤氏は横浜生まれの28歳で東京芸大美術学部絵画科に属している。がっちりとした体型だが、声が高くあどけなさが残り、鼻の下にちょび髭をたくわえたユニークな風貌だ。渡辺氏に話を聞いた。
「僕の父は結婚前から創価学会に入信しており、そのことを黙って母と結婚したんです。母は非学会員で、他の仏教を信仰しています。僕はそんな家庭環境で育ち、母の苦労を見てきました。よくある話ですが、選挙前になると公明党への投票依頼の電話が
再三かかってきたり、聖教新聞をとらないかとか、母に入会を迫る折伏〈しゃくぶく〉(勧誘)がすごくて、加えて、それが父の親しい人たちだったために、母は困り果てていました。でも、父はそんな母の苦しみには無頓着で、子供の頃から家族はバラバラ、
僕は父と口をききません。強引な折伏をする創価学会に対し、僕は疑念を覚えるようになり、そんな経験があって池田大作氏を描こうと思ったんです」 展示にこぎつけるまでにも、苦労があったという。