(三)
正しい姿勢は正しい呼吸のもと

(承前)
ではここで学ばなければいけないものを列挙しよう。
まず正しい姿勢、バランスの取れた姿勢である。
正確な姿勢とは、一言で言ってしまえば、正しい呼吸がちゃんとできる姿勢のことだ。
すなわち背骨、体の軸が垂直に立った、どこにも歪みのない姿勢である。
何だ当たり前ではないか、と言われるかもしれない。
そのとおり当たり前のことなのだ。
しかしこの当たり前のことを、いつでもどんな動きの中でも実現している人がどれほどいるだろうか。
ただつっ立っているならともかく、動きながらのことなのだ。
突き蹴り、あるいは受けをしながら体重移動を行う。
その一連の動作のどの瞬間を取り出して見ても、つねに体軸はまっすぐでなければいけない。
ましてそれが相手のいる組手の中であったらどうか。
これは容易なことではない。
だからこそ、この移動稽古の中でこつこつと作り上げていくのだ。
そして背骨が垂直に立ってこそ正しい呼吸ができるということ。
これがもう一つのポイントである。
腹式呼吸が武道の基本というのは常識だが、腹式呼吸で腹、つまり丹田に息を落とすには、体軸がまっすぐであるというのが絶対に必要なのだ。
息は垂直にしか落ちない。
傾いた姿勢、歪んだ姿勢では満足な呼吸すらできないということだ。
これがどれほど重要なことかは、いくら強調してもしすぎることはない。
また、こうして正しい姿勢を維持しようとすることは、バランス感覚のよさにつながる。
どんな動きをしても、つねに姿勢が崩れないということの大切さは、組手を考えてみればすぐに分かる。
腰の決まった突きでなければ威力は生まれない。
蹴りを放った後で体勢を崩してしまっては何にもならない。
相手の攻撃を捌く時、バランスが悪ければその圧力に押し込まれてしまうだろう。
ピタッと決まった姿勢はパワーも生むのである。
(つづく)