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【妄言】小島一志 胡散臭さ244%【珍言】
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0822名無しさん@一本勝ち
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2020/08/05(水) 19:31:37.89ID:LHt0tsH90
2007年07月29日
小島一志・作品集/「小説・拳王」(6)
小島一志・作品集/拳王(6)



(5)

翌日の夕方。アルバイトを終えた飛龍泰志は、白鳥光士が入院している中野の緑桜会病院にやって来た。
コスモ道場からの帰り際、泰志は追い掛けてきた哀川隼人から、白鳥が運ばれて行った病院の名前を教えられた。もし白鳥が入院することにでもなったら、見舞ってやって欲しいと頭を下げられたのである。
そして、改めて泰志の口からアルティメット・パンクラチオン出場の話を白鳥にして欲しいと哀川は言った。
緑桜会病院は、中野駅北口のアーケード街を抜けてぶつかる早稲田通り沿いにあった。<瀟酒な白亜のビル>という陳腐な慣用句がそのまま当てはまりそうな近代的な建物である。
病院の裏手には、緑の芝生と杉木立の間に赤い煉瓦歩道が延びる小さな公園がある。
泰志は駅前の花屋で買った切り花の束を手に持って、病院の玄関をくぐった。シティホテルを思わせる華美なロビーの片隅には大きなテレビモニターが設置され、黒革張りの椅子に多くの人たちが腰を降ろしていた。
受付を探す泰志の眼前に、不意に大きな影が被さった。頭を上げると、そこには人懐っこい眼をした哀川隼人の顔があった。
「来てくれたんだね、飛龍君。ありがとう」
哀川は照れたように笑った。
「ここに電話したら入院してるって言うんでね。白鳥さんの病室は──」
案内を促す泰志に、哀川は少し遠慮した顔を見せながら、「時間は取らせない。少し2人で話がしたいんだが…」と囁くように言った。
泰志はちらっと自分が持ってきた花に眼を遣ったが、小さく頷いた。
真夏の公園には、そろそろ陽が翳り始めているというのに誰もいなかった。大通りを走る車の音が遠くに感じられる。油・の鳴き声に交じって乾いた蜩の声が聞こえていた。
泰志と哀川はゆっくりと赤い歩道の上を歩いた。
「昨日、白鳥さんが病院に運ばれた後、君は言ったよな、あの試合はおかしいって…」
哀川は前を見たまま言った。いつもの哀川らしくない改まった口調に、泰志はわずかな違和感を感じた。
「僕はあの時、人一倍勝負に厳しい白鳥さんのことを、他人がペラペラ言うべきじゃないと思って、君の質問をはぐらかしたんだが…。やっぱり、あの人の名誉のためにも言っておくべきだと思い直したんだ」
哀川は泰志の横顔を見た。泰志は黙ったまま哀川の視線を無視した。
0823名無しさん@一本勝ち
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2020/08/05(水) 19:32:04.31ID:LHt0tsH90
「君のカカト落としが当たったのは白鳥さんの右の鎖骨だった。鎖骨といっても一番肩側で、普通ならあんなに苦しむような場所じゃない。
しかし、現実にあの蹴りで白鳥さんは倒れ込んでしまった。それがおかしいと──君は言ったんだと思う」
哀川は大きく息を継いだ。
「──実はあそこは白鳥さんの古傷なんだ。その古傷に君のカカト落としが入った…。その意味じゃ、白鳥さんにはアンラッキーだった」
泰志は表情を変えない。だが、ほんのわずかに頷いたように見えた。
「僕はもともと人の勝負にあれこれ口を挟むのが好きじゃないんだ。でも、あえて言わせてもらう。
あの時、君が出した左のカカト落としは決して万全な技じゃなかったはずだ。
だから技の威力も…、まあ常人には及ばないパワーがあったことは否定しないけれど…、君の技としては、という意味で言えば、それほどには感じなかった。
でも、白鳥さんにとって最大の急所に君の技はヒットした。そのうえ白鳥さんは倒れ込みながら足刀で横蹴りを出した。
あれは格闘家として本能的に出た技だと思う。でも、それが命取りだった。
白鳥さんは、蹴りを出しながら、君にやられた鎖骨側の肩から直接床に落ちた。それが多分、致命傷になったんだと僕は思う」
哀川は不意に足を止め、屈み込んで歩道脇の芝を摘んだ。そして口笛を吹くようにそれを飛ばした。
「お節介なことを言っちまった。すまん」
何も言わない泰志に、哀川は苦笑いを浮かべて言った。
「──そんなことだとは思っていました」
泰志は小さく息を吐いた。
「白鳥さんは強かった。残念です──最後までしっかりした形で闘いたかった」
哀川は黙って頷いた。
0824名無しさん@一本勝ち
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2020/08/05(水) 19:32:28.57ID:y2xUxSVa0
■精神状態が怪しくなってきた6月

世間では春からこの時期に発行予定で発売延期された本は、とっくに発行され
既に書店に並んでいる

「小島一志先生の新作『梶原一騎正伝』が遂に執筆完了!
あの謙虚な小島先生が最高の出来と言っているのでかなり期待できそうだ。あとは発売を待つだけだ。」

「僕の著書を海外で発売するという企画を持ちかけられました。
まだ詳しいことは秘密ですが、具体的に言うとアメリカ・・・英語での出版になります。
実現すれば日本の小島一志から世界のカズシ・コジマになるかもしれません」

「大山倍達正伝がベストセラーになってから僕にも固定読者が増え、新しい本を出すたびにアマゾンの
部門別ランキングのトップが定位置となった。」
0825名無しさん@一本勝ち
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2020/08/05(水) 19:32:35.60ID:LHt0tsH90
芝の真ん中に大きな杉の木が一本だけ伸びている。その下の白い木製のベンチに哀川は腰を降ろした。哀川は、まるで土の上を歩く蟻でも観察しているかのように、前屈みになったまま黙っていた。
泰志は杉の木に寄り掛かって額の汗を拭った。
「実は、その白鳥さんの古傷…。あれは第1回の全日本大会に出た時のものなんだ」
哀川がポツリと言った。
「帝武館のですか?」泰志が尋ねる。
「そう。決勝で、北条さんと闘って…、その時の傷だって、白鳥さんは言ってた」
「あれは凄い試合だった──」
哀川は泰志を振り返った。
「見てたのか?」
「俺が10歳の時でした。映画の『ゴールドラッシュ・トーナメント』で見た記憶がある」
「そうか、見たか。僕はあの時、中学1年生だった。柔道部に入ったばかりで、あの試合をテレビで見て、僕はこんなことやっていていいのだろうかってね…。
毎日受け身ばっかしやらされていることに悩んだものだった。結
局、あの時の感動というか、白鳥さんと北条さんの決勝戦の鮮烈な印象がずっと尾を引いて、30を越えた今でもこんなことをやっているのかもしれないな」
0826名無しさん@一本勝ち
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2020/08/05(水) 19:33:04.73ID:LHt0tsH90
帝武館主催の第1回全日本選手権大会決勝戦は、空手界史上に燦然と輝く伝説の名勝負と言われている。
ともに帝武館総本部の指導員にして宿命のライバルと目されてきた両雄──白鳥光士と北条邦幸が、<ストロング空手>の頂点を賭けて相まみえたのである。
2人の空手はあまりにも対照的だった。
カミソリのような鋭い蹴り技を主体に、スピードとタイミングで相手を制する正攻法の空手を身上とする白鳥。それに対し、北条の空手は破天荒そのものと言ってもよかった。
反則すれすれの技は言うまでもなく、相手を動揺させる言葉やジェスチャーで、強引にペースを自分に持ってくるダーティーなインサイドワークなど、北条の型破りな空手を批判する者は少なくなかった。
だが、そんな粗暴な空手を演じる一方で、北条が持つ天性の勝負勘は比類なく、硬軟取り混ぜた動きの中で見せる一発の破壊力は、帝武館随一とも言われていた。
下馬評では白鳥の圧倒的有利といわれていた。実際、3度の延長戦にもつれた試合は、決め手こそなかったものの、終始白鳥が先手を取り続けていた。
3度目の延長戦で、<掴み禁止>のルールを破る反則を2度犯した北条は、<減点>を取られた。
ともに疲労困憊の中にありながらも、北条の反則減点によって精神的優位に立った白鳥の動きには、心なしか冴えが戻ったように感じられた。
一方、北条は左右に足捌きを変化させて白鳥を誘うが、突破口を見出すことが出来ないまま、次第に追い詰められていった。
試合時間が残り30秒を切った、その時、北条は突然、得意の足捌きを止めた。
観客はそれを見て、北条は諦めた、もしくは勝負を捨てたと思った。それは白鳥も同様だった。自らの前をうるさく動き回っていた相手が、今は呆然と怯えたように立ち竦んでいる。
0827名無しさん@一本勝ち
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2020/08/05(水) 19:33:29.47ID:LHt0tsH90
その瞬間、白鳥の心に欲が生まれた。
このまま待っていても勝利は自分の手に入る。それならば──。
「ラスト5秒です」と、セコンドの後輩が叫んだのが聞こえた。白鳥はその声に弾かれたように、左ストレートから続く左前蹴りのフェイントから、素早く右上段回し蹴りを繰り出した。
それは、ノックアウトを狙った渾身の蹴りだった。
蹴り足の膝を抱え上げ、腰が左に回り始めた刹那、白鳥は北条の眼がギラッ!と光ったのを見た。北条はこの瞬間を待っていたのだ。
白鳥が後悔の念にとらわれた時、すでに北条は左足を白鳥のすぐ前に踏み出し、右ストレートのモーションに入っていた。
蹴りの回転に連動するように白鳥の右上体が北条の目前に迫ってきた。その瞬間、北条のパンチが絶妙のカウンターで、白鳥の右胸元に吸い込まれていった。
一瞬、骨が砕ける鈍い音が試合場を駆け巡った。白鳥は受け身を取ることも出来ず、後頭部からマットに落ちた。
あまりにも壮絶な、そして意外な試合の結末に、観客席は水を打ったように静まり返った。会場にこだまするアナウンサーの絶叫が場違いなほどうるさく感じられた──。
この試合を契機に、北条は<空手界最強>の称号を手にし、帝武館総長である鏡徹生をも凌ぐ伝説の英雄、『ミスター帝武館』『喧嘩名人』として、その名声を高めていくことになる。
一方、白鳥はこの大会の直後、帝武館を離れ、人前から姿を消した。
2人の運命は、たった8分58秒の闘いを境に、まったく異なる方向に分かれていくことになったのである。
0828名無しさん@一本勝ち
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2020/08/05(水) 19:33:55.13ID:LHt0tsH90
「あの大会の直後、白鳥さんは帝武館をやめた。白鳥さんはその頃のことを何も言わないけど、噂では世界各地を流れていたらしい。タイのバンコクでムエタイの練習をしていたとか、オランダのジムでキックの練習をしていたとか色々な話がある。
実際、ずっと後の話になるが、僕がオランダに遠征した時、 あっちのトレーナーたちが白鳥さんを知ってるかって訊いてきたもんな。あいつら、白鳥さんのことを『グレートサムライ』なんて言ってたな」
哀川はいつもの柔らかい顔に戻っていた。
「それで2、3年後だったっけ。日本に帰ってきた白鳥さんは突然キックボクシングに転向して、あっという間にミドル級のチャンピオンになっちゃった。帝武館の頃よりも一段と強くなったって僕は思った。
白鳥さんがデビューしてからというもの、他のボクサーが馬鹿に思えたもんだよ。だってあまりに実力が違うって感じがしたんだもん。
それから数年して、白鳥さんがタイの現役チャンピオンを倒した時には…僕はそれもテレビで見たんだけど、身体の震えが止まらなかったよ」
「哀川さんは白鳥さんのファンだったんだ…」
泰志の言葉も何となく柔らかくなった。
「大ファンさ。だから今までずっと追い掛けてきたんだ。まあ、あの決勝で勝った北条さんは、空手界最強の男と言われるようになったけれど…。
もちろん僕だって北条さんは凄いと思っているし、『喧嘩名人』の伝説は本物さ。だけど…、試合に負けた白鳥さんだって、結局ムエタイの本場でラジャダムナンの現役チャンピオンをKOしたんだもんな。
それって凄い偉業なんだろ? 白鳥さん、実績じゃ全然北条さんにも敗けていないと思うし…。僕は心から尊敬しているんだよ、そんな格闘家としての白鳥さんをね。
だから、コスモを旗揚げした時、白鳥さんが闘道会の幹部なのを承知で、三顧の礼を尽くして白鳥さんをテクニカルコーチに迎えたんだ」
泰志は黙って哀川の隣に腰を降ろした。深呼吸をひとつする。
「しかし、今のあの人には悪い噂もある」
「…白鳥さんの仕事についてだろ?」
哀川は前屈みになって、枯れた芝をちぎりながら言った。
0829名無しさん@一本勝ち
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2020/08/05(水) 19:34:22.52ID:LHt0tsH90
「……」
「キックの興行関係で知り合った『その筋』と付き合いができて、その関係で総会屋まがいのことをやり始め、今でも世紀会とかいう総会屋の団体を率いているという話…。
君が聞いているのもそういう話なんじゃないか。それについては、僕もどこまで本当か知らんが、世紀会というのは実在する。
それに白鳥さんが何らかの形で関わっているのも事実だとは思う。それから…、それとは別に、JUNGLEという名のプロモーション会社を経営しているのは公然の話だしね。
まあ、それについては、うちのコスモの興行も白鳥さんのジャングルに面倒見てもらっているわけだけど」
哀川は大きな溜息をついた。
「僕が思うに、それは清濁合わせ飲むというか、格闘家としての白鳥光士とビジネスの部分での白鳥光士は別だって…、いつも白鳥さんは言っている。
実際、そこのところは、あの人が完全に線を引いているのを僕は知っている。それは、清々しいくらいに公私を分けている人だよ、白鳥さんは」
哀川は泰志の顔を見つめた。自らに言い聞かせるように声を高くした。
「だから、僕もそういう噂があることは知っているけれど、それは他人のひがみというか、正しくはないと…、僕は断言するよ」
泰志は立ち上がった。哀川に背を向けて言った。
「少なくとも武道家としての白鳥さんは本物だった。それは認める。それはね…」
そして泰志は歩き始めた。哀川は黙って泰志の後に従った。病院の玄関に来たところで、泰志の肩を叩いた。
「実は、今、例の北条さんが白鳥さんを見舞いに来ているんだ。北条さんも君に会うのを楽しみにしてると思うよ」
意味ありげな笑顔を浮かべながら哀川が言う。泰志が、「それじゃ、その『喧嘩名人』の顔でも拝みに行きますか」とおどけたように言うと、哀川は心なしか顔を曇らせた。
「すまんが、僕はその北条さんがちょっと苦手なんで…、ここで失礼させてもらうよ」
そして、「パンクラチオンで君と闘うのを楽しみにしている」と、哀川は右手を泰志の前に差し出した。
泰志はいつしか、いつもの翳のある顔に戻っていた。
「握手は俺の趣味じゃないんです。それじゃ、ここで」
そう言うと、泰志は哀川を振り返ることなく足早にロビーの中に入って行った。そんな泰志の後ろ姿を哀川はずっと見つめていた…。


(つづく)



(「拳王 復讐─REVENGE」PHP研究所/1997年8月発行からの抜粋)
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