「ある日、ケンカ空手で知られる大山倍達と出会った。
大山倍達は取り巻きの弟子たちを引き連れていた。
藤平光一の姿をみとめると握手に来たが、藤平光一がニコニコしているので、
つい深々と頭を下げ、両手で握手をしてしまった。
ほんのわずかな交歓を終え別れたすぐあとに、大山の弟子の一人が戻ってきて、藤平光一にこう聞いた。
『先生はいったいどんな人なんですか。ウチの先生があんなふうに頭を下げてあいさつをしたのを初めて見ました』
聞くところによると、大山倍達という人は、どんな相手とあいさつを交わすときでも、自分は体を反らして握手をしていたそうである。
〔中略〕
生前、この間のことを植芝吉祥丸に質問したが、彼は独特の笑みを片ほほに浮かべ、
『ま、色んなことがあったのですよ』とのみ言った。」

 (戦後合気道群雄伝186〜187ページより)