生活に必要な最低限の現金を全国民に無条件で支給する「ベーシックインカム」(BI)が注目されている。
しかし、BIは巨額の財源を必要とするだけでなく、
制度設計によっては低所得者に不利な逆進的政策ともなりかねない。
まず最低賃金を大幅に引き上げ、次に勤労所得税額控除(EITC)を拡充し、
生活費と物価上昇率に対応させる。そして給付申請を簡素化し受給漏れを減らすのだ。
当然、これらはパートや非正規もカバーするものとしなければならない。
こうした対策を組み合わせれば、仕事を掛け持ちしている人も含め、
実質的にフルタイムで働いている人が貧困にさらされ続けるといった事態は防げるだろう。
EITCは、労働意欲の向上や貧困削減などに大きな効果のあることが実証されている。
カリフォルニア州は最近、ギグエコノミーをEITCの対象に含め、
所得要件も見直すことで申請者数を従来の3倍超に引き上げた。
ただ、同州EITC対象者のうち制度を知っているのは5人中1人にも満たない。
全米でも5人に1人しか申請を行っておらず、毎年160億ドルの控除が使われず宙に浮いている。
認知度向上など、さらなる対策が必要なのは明白だ。
低所得者や障害者向けの医療扶助制度「メディケイド」や
補助的栄養支援プログラム(フードスタンプ)などへの登録簡素化も欠かせない。
毎年500億ドル相当の連邦社会保障給付が未申請となっているからだ。
現在、確実に給付が行われるよう対象者を自動登録する実験が5つの州で進んでいる。
つまり、生活賃金の実現に向けて、なすべき仕事は山とある。
BIや雇用保障のような幻想にかまけている暇はない。