被告人は聞かれたことに対し、ゆっくりした口調で誠実に答えた。足の痛みや経済状況についても、
質問されれば理路整然と応えるが、大げさに窮状を訴えることはしない。クルマはすでに処分し、
無免許運転はもうしないと誓った。今後は自分と暮らしている子供も別れた妻のもとで暮らす予定になっているそうだ。
淡々と進む審理のなかで唯一、被告人の声のトーンが変わったのは、これから先の人生について裁判長から尋ねられたときだった。
「うつ病からは回復していますので、医師として再出発できればと思っています。これまで復職を試みてうまくいきませんでしたが、
就職が決まれば、(残っていた研究機関での)2年間の研修医生活が始まります。ただ、この裁判の影響で医道審議会
(医師の免許の取り消しなどに関して調査・審議を行う厚生労働省の審議会)にかかるかもしれないので、
それがはっきりするであろう1年後から、働き口を探そうと思っております」生活保護に甘んじるのではなく、
もともと目指していた医師としてやっていきたい。病に苦しみ、子供との同居も解消せざるを得ない被告人にとって、
それが切実な願いだ。実家の近くに引っ越して、父親のサポートを受けながら再起を目指すことも決めている。
が、ここで罰金刑以上の判決を受けると、医師免許剥奪の可能性が大きくなってしまうという。