日銀緩和、副作用複雑に、黒田氏「超長期金利下がりすぎ」、銀行収益悪化、年金の運用難。
2019/09/07 日本経済新聞 朝刊

 日銀の黒田東彦総裁はインタビューで世界経済の下振れリスクを強調し、追加緩和を辞さない姿勢を改めて示した。同時に、20年
債など超長期国債を中心とする金利の急低下には、年金の運用難といった緩和の副作用を増幅しかねないとの警戒心ものぞかせた。
適切な金利水準への誘導と国債買い入れの継続を両立する難しさも増す。6年半に及ぶ黒田緩和は副作用に挑む難路が続く。(1面
参照)
 「いまの金融政策の一番の柱は長短金利操作で、(国債の利回り曲線を)適切な形状にしていく」
 黒田氏が強くにじませたのは現在の政策の枠組みを堅持する姿勢だ。
 短期金利をマイナス0・1%、長期金利を0%程度に誘導する長短金利操作(きょうのことば)は2016年9月に始めた。同年1月のマ
イナス金利政策の導入決定後、長期金利の指標になる10年物国債利回りが過去最低のマイナス0・300%に下がるなど幅広い金
利が低下。「特に超長期金利が下がると生命保険や年金のリターンも非常に下がり、消費者マインドにマイナスの影響を与える」と懸
念した。
 日銀は債券市場の機能が失われるのを避けるため、プラスマイナス0・2%程度まで長期金利の変動を容認する考えを示してきた。
だが足元では長期金利が再びマイナス0・300%に接近。利回り曲線全体も沈み、長短金利操作を始める前の水準に逆戻りしている。
 「ちょっと下がりすぎで、もう少し上がってもおかしくない」
 黒田氏が繰り返し言及したのは足元で低下基調が続く超長期金利についてだ。生保や年金といった長期投資家の運用難が強まる
ことを警戒している。超長期債の買い入れオペ(公開市場操作)は「必要に応じて量やタイミングを調節するのが当然だ」と指摘。オペ
減額を示唆するなど一段の金利低下をけん制した。
 利回り曲線が平たんになると、短期で調達した資金を長期で運用する長短金利差で稼ぐ銀行に与える影響も増す。黒田氏がマイナ
ス金利の「深掘り」を選択肢の一つと改めて明言したのも緩和効果を高めるだけでなく、利回り曲線を立たせて緩和の副作用を和らげ
る狙いがうかがえる。
 ただ最近は金利が一定水準を下回ると、経営悪化を懸念した銀行が融資を絞って経済にむしろ悪影響を与える「リバーサル・レート
論」も盛んだ。緩和の効果と副作用は単純に切り分けにくい。そもそも足元の金利低下が「欧米国債の金利低下の影響があり、市場
の異常な反応で起きているわけではない」ことは黒田氏も認めている。
 「国債の買い入れは引き続き必要で、マネタリーベースの増加も不可避だ」
 6年半にわたる緩和策が積み重なり、今後の政策運営で整合性をどうとるかに腐心している様子もにじむ。2%の物価安定目標の
達成は遠く、緩和策自体が日銀の手足を縛る。例えば当初は長期国債の大量購入を通じたマネタリーベース(資金供給量)の拡大
に重きを置いたが、徐々に金利誘導に軸足を移し、国債の購入量も減らしてきた。それでもなお黒田氏はマネタリーベース拡大の旗
を降ろしていない。
 足元では日銀が国債購入を続ければ自ら長期や超長期の金利低下を助長しかねない状況だ。日銀内でも過度な金利低下を警戒
することとの整合性を問う声が出ている。利下げ余地を残す米国などと異なり大規模緩和を続けるきしみが目立つ。