「マイナス金利深掘り選択肢」、黒田日銀総裁インタビュー、世界経済減速を警戒。
2019/09/07 日本経済新聞 朝刊

 米欧が金融緩和にかじを切り始めるなか、6年半にわたり異次元緩和を続けてきた日銀の黒田東彦総裁がインタビューに応じた。
米中貿易戦争の混迷が深まり、世界経済は「さらに下方リスクが高まっている」と警戒レベルを高めた。現在はマイナス0・1%の短
期政策金利について「深掘りは従来から示している4つのオプションに必ず入っている」と述べ、追加緩和の手段としてマイナス金利
の深掘りが選択肢であることを認めた。(関連記事3面、一問一答を5面に)
 世界では米連邦準備理事会(FRB)が7月に10年半ぶりに利下げし、欧州中央銀行(ECB)も月内に緩和に踏み切る公算が大き
い。黒田総裁は「米経済が深刻な景気後退になる可能性が高いとは思わない」と述べつつ、中国や欧州中心に世界経済が減速して
いると指摘。「さらに悪化していく可能性も否定できない」と強い警戒感を示した。
副作用にも配慮
 日銀は7月の金融政策決定会合の声明文で「物価安定の目標に向けたモメンタム(勢い)が損なわれるおそれが高まる場合には、
ちゅうちょなく追加的な金融緩和措置を講じる」との表現を追加。予防的な緩和に動く構えを示した。
 黒田総裁は「その状況から今の段階で何か非常に変わっているとは思っていない」との認識を示し「現時点で(2%の)物価安定の
目標に向けたモメンタムは維持されている」と語った。国内経済も「個人消費、設備投資という内需は比較的しっかりしている」と指摘
した。だが読み切れないのは「米中貿易摩擦を中心に警戒を要する」と強調した海外経済のリスクだ。
 日銀はこれまで追加緩和の具体策として(1)短期政策金利の引き下げ(2)長期金利操作目標の引き下げ(3)資産買い入れの拡
大(4)マネタリーベース(資金供給量)の拡大ペースの加速――の4つを示してきた。
 黒田総裁は「組み合わせや改善版などいろんなことが考えられる」と強調。そのうえで「金融システムに与える影響、金融仲介機能
や市場機能を阻害することにならないか、プラス面マイナス面を総合的に勘案して最も適切な緩和策を講じる」とし、副作用に配慮す
る考えを改めて示した。
 金融機関の収益を一段と圧迫するため、ハードルが高いとみられているマイナス金利をさらに下げる「深掘り」にも言及。「(マイナ
ス0・1%の短期)政策金利の引き下げ、深掘りは4つのオプションに必ず入っている」と明言した。
 米中対立などの不安からマネーが安全資産とされる国債に集まり、世界で金利が低下。日本でも4日、長期金利の指標となる新
発10年物国債の利回りが3年1カ月ぶりの低水準となるマイナス0・295%まで下がった。
 日銀は長期金利の誘導目標を「0%程度」とし、プラスマイナス0・2%程度まで変動を容認する方針を示してきたが、それを下回る
水準が続く。
 黒田総裁は「弾力的に市場機能が発揮されているところを無理に(操作する)というのはいかがかという気はしている」と述べ、当面
は金利低下を容認する考えを示した。同時に「全く限度がないのかというと、0%程度という金利の操作目標の意味がなくなる」と過
度な低下をけん制した。
超長期債調節も
 一方で、期間20年、30年といった超長期債の利回りについて「ちょっと下がり過ぎだ」と言明。「生命保険や年金のリターンが非常
に下がり、消費者マインドにマイナスの影響を与える」として「超長期債のオペ(公開市場操作)は必要に応じて量やタイミングを調節
していくことが当然だ」と語った。追加緩和を探るなかでも、運用難などの副作用に配慮する姿勢を強くにじませた。
 インタビューは5日に実施した。