なぜ「はばき」が武勇の象徴なのか。それは、それこそ義経に関係した言い伝えにヒントがある。「弁慶の泣き所」という、有名な言葉があるが、それは脛のことだ。いかなる怪力無双の豪傑でも、鍛えにくい急所、それを防護するのが「はばき」なのである。

 我々が日常口にする「アキレス腱」という言葉も、同様の神話伝説に基づく名称である。ギリシア神話で神懸った強さを見せた英雄アキレウスの急所が、かかとだったのだ。若干部位は異なるものの、いかなる英雄であっても下腿部が急所というのは、洋の東西を問わない、古代からの認識であった。

 また、北欧神話の英雄ジークフリートなども、足ではないものの一ヶ所だけ弱点があって、それを狙われて殺されたと伝わる。無敵の英雄の、ただ一ヶ所の弱点が、逆説的ながら、無敵の英雄のシンボルでもある。それが「弁慶の泣き所」であり、「アキレス腱」なのだ。