「今度は、一体どこの国がせめてきたというのだろう」
 卑弥呼に仕える若い召使いの女たちの顔にも不安の色がただよっていた。
 村々のざわめきが、この神聖な巫女の森にまで伝わってきて、鳥たちがしきりになきさわぎ、羽をばたつかせていた。
 「父の王と弟がきます。神に祈りをささげる準備をしなさい」
 と、卑弥呼は召使いたちに命じた。召使いたちは、あわてて神殿にかけこんでいった。
 神殿は小さいながらも高床式の小屋である。祭壇のサカキ(榊)の枝に、銅鏡がかけられている。
 そのサカキの枝が新しく取替られ、小さなともし火がともされた。
 その間に卑弥呼は、森のなかにわきでている泉にいって、みそぎをした。
 神に祈りをささげる前には、いつもそうして水のなかに入り、体を清めるのである。