そして、Aは車を発進させ、山道を下った。俺は「さっき何であんなに焦ってたん?」と。するとAは「あの店に出る直前に見たんよ。俺。あの音の正体」と言い出した。
「正体?」
俺はAにそう聞いた。
「俺らがいた個室席から早歩きで近付いてくる人影がいたんや」
Aはそう言ってバックミラーを見て確認したようだが、「何も来てなさそうやな」と呟き、そしてまた運転に集中しだした。
「人影?店員やったん?」
Bがそう言うとAは「最初は何なのかはわからんかったが、出口の直前に見えたんや。姿はさっきの店員やが、何より顔がやばかった。目は真ん丸のデカい黒目、耳元まで裂けた口、鼻はなくて、そして歯がな、肉食獣の牙みたいに鋭くて。そいつがな、その牙で歯軋りしとったんよ。あんな恐ろしい顔した人間見たことあらへんわ」と震えながら話してた。