その頃、親父は「時宝堂」という骨董屋の主人と親しくなりました。
その人は小柄な老人で、親父が金があると目をつけたのか、
ちょくちょく家に尋ねてくるようになったのです。
ある日親父は家族に向かって、「この間から、家の中がちょっと変だったろう。
 どうもあのサンゴの根付けが原因らしい。時宝堂さんから聞いたんだが、
 ああいうものには、お女郎さんの恨みがこもってるかもしれないってね。
 だが、そういうのを打ち消す方法もあるって話だ。
 それでこれを買うことにしたよ」と言って、一幅の掛け軸を見せました。
よくある「寒山拾得(中国唐代の2人の禅僧)」を描いた中国製で、
それほど高い物には思えませんでした。