そのころにはシロの血はぬぐってありまして、縁先で石を見せると老人は唸り、
「これはまた、怖いねえ。怖いものを出した。この素性のものとまでは
 思わなかった。でもねえ、あなたのような人が磨いたから、

 これで済んだんだろう。若い人だったらとり込まれていたろうに」
こう言って値をつけたんですが、それが100万の桁にのぼるもので。ええ、
おそろしいので買っていただきましたよ。その後はとくに変わったことはなしです。

憑き物が落ちたというか、あの夢中で磨いていた時間は何だったのだろうかって。
老人にはあれから会っていませんし、連絡もありません。
あとですね、この2日後に、散歩に出ようと家の前の道を歩いていたら、
シロが側溝の中で死んでいました。保健所には連絡せずわたしが庭に
埋めましたが、いや、気の毒なことをしましたよ。まあ、こんな話なんです。