でね、それが見えてきてから、面白くなって午後のずっとを磨きにかけてたんです。
女房に見せましたら、「顔かねえ? そう言われればそんなような気もするけど、
 これは動物の顔じゃないかしら」 「そんなはずはない。
 これが額でここが鼻で・・・」とうとう、朝起きたらすぐに石を手にとって
磨き始めるという、何かの中毒者みたいなことになってしまったんです。
ええ、女の顔はだんだんはっきりしてきまして。歳は30代前半
くらいですかねえ、なんとなく憂い顔に見えるところがよかったんです。

和裁屋にはその後2度行って、端布を買い足してきました。
飯もあまり食わなくなって、少し痩せましたから女房も心配し始めてね。
「あんたが夢中になってることをとやかく言うのもあれだけど、私には虎とか
 ああいう怖い動物に見えるよ。もう売っちまったほうがいいんじゃないかい」