「高く売れるようになりますかねえ」わたしがそう言うと、
老人は懐から名刺を出し、手渡してよこしました。それには「古美術商」の
肩書がありまして。「まあね、何か出たら、もし手に負えないことがあったら、
 連絡して」 「え、手に負えないことって?」 「まあまあ」

こんなやりとりをして老人は帰って行きましたよ。「ふーん、石を磨く・・・ね」
老後の、時間はあるが金はないわたしにはうってつけの趣味だと思いまして、
老人から教えてもらった和裁屋で、絹の端布を買って帰ったんです。
翌日の午後からですね。その石を磨き始めました。
下になっていた面を上に向け、ひたすら端布でこする。
力を入れてもどうにかなるわけでもないので、ゆっくりと優しく。
女房が「何をやってるのか」と聞いてきたので、