本来鑑賞すべき向きとか、そういう意味だと理解したんですが、老人は、
「これね、こっち側を、そうだなあ、和服の端布がいいかな、絹の。
 それで磨いてごらんよ」こう続けました。
「磨く? はあ、石を磨いてる趣味の方もおりますね」
「うんまあ、光らせるというわけではないが、磨いてれば何か出てきそうだ。
 端布は近くの和裁屋で売ってるだろうから、ぜひやってみてごらん」
「何が出てくるんですか?」 「まあ磨いてのお楽しみだろう」
こう言って、老人から石を磨く方法を習いました。世間一般に行われている
石磨きとは違って、グラインダーなどの機械はおろか、磨き粉のようなのも
一切っ使っちゃならないそうで、ただひたすら絹の端布でこする。
その間、無念無想になるのが醍醐味だと言ってましたよ。