「この石ちょっと見せてくれるかね」って言ったんです。「ああ、どうぞ」
それは骨董とはまた違うもので、天然石ですから、美術品てことでしょう。
ちょっと見ばえのいい木製の台座もついてました。なんていう種類かはわかりませんが、

20cm四方ほどで、白く透きとおるロウソクみたいな質感のものでした。
老人は手にとってしばらく眺めてから、「ふうん、これねえ、上下逆さまだよ」
「どういうことです?」 「この台座を向いてるほうが本当は上だよ」
「ああ、でも、そうすると安定しないんじゃないかな」
老人の言うとおりに、石を逆さに置いてみましたが、やはりグラグラしたし、
しかも趣もあんまりよくなかったんです。「やっぱり前のほうがいいでしょう」
「観賞用としてはそうかもしれんが、顔があるのはこっちだな」
「え、 顔?」このときはもちろん、本物の顔のことだとは思わなかったんです。