「遺書というより、謝罪文だった。お金を取ってごめんなさい、不良に目をつけられてごめんなさい。そんなことばかりがびっしりと息子の文字で書いてあった。そう、あれはまさしくあの子の文字だった。……たった十六歳で。あんな小さな体で、あれほどの苦しみを一人で背負っていた。あの子は何も悪くないのに。全てはあの不良たちのせいだというのに。だから私は復讐しているんだ」
老人はBを鋭く睨んだ。その目には明確な殺意が宿っていた。人殺しの目つき。殺しの業界では「同類は同類を見分ける」と聞いたことがある。それをBは今まさに体感していた。ジジイと俺たちは同類なのだ。
「分かるだろう。君らがいなければあの子は死ななかった。きっと元気に、今も」
そう言って老人は柵から棒を数本、一気に引き抜いた。
空気の色が変わった。どす黒い何かがどこからか吹き出して、部屋に立ちこめる。屋敷全体がガタガタと震えている。怨嗟の声はさっきより遥かに音量を増して、近づいてきていた。
自分の膝が震えているのが分かった。
「君の友人の声も聞こえるんじゃないか? きっと穴の底の方が君には居心地がいいだろう。ほら、君の友人も呼んでいる。さあ」
老人は口だけで笑っていた。
老人に黒い影が重なる。部屋の中央の大穴から黒いもやのようなものが出ていた。それは巨大な手のシルエットだった。それが、ゆっくりとBに向けて回転する。
Bはたまらず逃げ出した。屋敷から飛び出し、大通りに出てもなお、うなりのような声が聞こえていた。老人は追ってこなかった。