屋敷の中はやけに静かだった。入って正面に階段があり、二階へ続いている。やはり幽霊屋敷として知られているだけあって、長年人が寄り付いていないようだ。家具や調度品には分厚くほこりが積もり、風が吹けば家全体がきしむ。それなりに風のある日だったから、足を踏み出すたびに床がきしむ音で気づかれることはなさそうだった。床にはたくさんの足跡がついていたが、きっとジジイのものか、肝試しに来た学生のものだろう。
一階の部屋を軽く見てみたが、特に変わったものは見つからなかった。玄関と比べて足跡が少なかったくらいだ。玄関に戻って二階への階段を上る。見つかったらどうしようという危機感はほとんどなかった。たとえジジイに見つかっても、腕力勝負で負けることはあり得ない。
広めの屋敷ということで、二階にも多くの部屋があった。階段を挟んで左右に廊下が伸びている。だが、老人がどちらへ行ったかは一目瞭然だった。左手の廊下の床には調度品と同じくほこりが分厚く積もっていたからだ。たくさんの足跡はまっすぐ左手側の廊下を進み、奥から三番目の部屋へと続いていた。どうやらジジイはあの部屋しか使っていないらしい。
突然、屋敷全体の雰囲気が変わった気がした。さっきまで静寂に包まれていた廊下が、扉が、階段が、今は小刻みに振動しているかのようだ。強い風でも吹いたのか。
どこからか、声がした。耳を澄まさなければ聞こえないほど小さいけれど、それは大声だった。それも、かなり大勢の。
ここは不吉だ。直感的にそう思った。廊下の奥にある窓の外は夜が深まっていて、街灯らしき無機質な明かりがうっすら壁に濃淡を作っている。
Bは覚悟を決めた。どうせ見つかっても俺の方が強いのだから問題はない。ならば一気に踏み込んでしまえばいい。それに、異様な雰囲気の場所から早く立ち去りたかった。
足跡が続くドアまでつかつかと進み、ガチャリとドアノブをひねった。勢いのまま扉をあけ放つ。
部屋の中はまさしく異様な光景と言って差し支えなかった。