2/6
中学生の頃のある日、唯一の家族である母との会話で、幼少期の記憶について話題が出ました。
私の思い出では、幼い頃住んでいた家には大きなフランス人形が飾られており、その人形は、寝室の、大きな窓と一体になったガラスケースに収められていた筈です。
しかし、母はそのことを否定し、そのような人形は存在しなかったと言うのです。
奇妙な事に、私はそのフランス人形の存在を強く感じていたにも関わらず、母曰く、実際にはそんなものは存在していなかったのです。
確かに、
簡素なドレスを着ていた気がする。
帽子は被っていなかった気がする。
等、細かい部分はうろ覚えです。
しかし、窓と一体物のガラスケースという具体的な記憶もあるのです。
私には、幼少の同時期に、フランス人形がある家とない家という、二つの家の記憶があったのでした。