7世紀頃、コーカサスからカスピ海北岸に、総人口が100万の「ハザール王国」という巨大王国が存在していた。住民はトルコ系白人(コーカソイド)で、商人・職人・武人として優れていたが、周囲の国とは違ってこれといった宗教を持っていなかった。
 不運なことに、キリスト教を国教とする東ローマ帝国とイスラム教を国教とするイスラム帝国は、ハザール王国をはさむ形で、政治的にも宗教的にも対立していた。そのためハザール王国は、次第に両国の「宗教的な干渉」を受けるようになり、どちらの宗教に改宗しても、国全体が戦火に巻き込まれるのは必至という状況に陥った。

 ふつう国が瀕死の状態になったときには、どちらか強い方の勢力を選んでしかるべきだが、ハザール王国の王オバデアは、こともあろうに国民まとめて「ユダヤ教に改宗」させてしまったのである。
 彼らはユダヤ教に改宗しただけでなく、自分たちは「血統的にもアブラハムの子孫」であるとした。いわばユダヤの仮面をつけてしまったのである。彼らがそこまでユダヤに同化した理由は、キリスト教もイスラム教もユダヤ教を母体にした宗教だから、ユダヤ教に改宗してしまえば、両国からの宗教的干渉を回避できると計算したためであったという。