この瞬間、秀吉の脳裏に天下静謐の方策が思い浮かんだ。すべての者の戦を禁ずる惣無事令と、高野山に要求したように武士以外の者から武具を奪う刀狩令であった。

──この坊主を、高野山に留めおくはもったいない。

人材好きの秀吉は大名にしてやるから仕えよと申し出たが、応其は一笑に付した。応其の志はあくまで悟りを開くことにあり、そのために、あるべき高野山を切り盛りすることだけが、彼の望みであった。

「ならば、この後は上人が高野のお山を采配されよ。高野の応其ではなく、応其の高野だと心得るべし」

応其は高野山を自分のものだと考えたくはなかったが、己の手で空海の高野山を再興できることは願ってもないことであった。

この後、応其は高野山を積極的に改革し、九州討伐の和睦交渉など、秀吉の天下統一を側面から助けていった。