それから、わたしはあの夜の事が忘れられず、平安閣にも行かなくなり、彼氏とも自然消滅してしまいました。
そして、それから1年位経った頃、S子から助けて欲しいと言われました。わたしは、高校を卒業して、ブティックで働いていたのでS子とも疎遠になっていたので、急の電話に驚きましたが、S子の話を聞いて更に驚きました。何でもS子は、わたしに平安閣に置いてあるS子の荷物を取りに行って欲しいとの事。
もちろん、わたしは自分で取りに行く様言いましたが、取りに行けない理由が有ると言います。その理由と言うのが、付き合っているAと遊びに行った帰り、Aが眠いから車運転して行ってくれと言われて運転を変わったそうです。その時、Aは助手席のシートを倒し、シートベルトをしないで寝ていたそうなのですが、夜通し遊んでいた事もあり、S子は眠気に勝てず居眠り運転をしてしまい、踏切の角に設置されているコンクリートに激突し、シートベルトをしていなかったAは、顔面をフロントガラスに叩きつけて、顔に重症を負って入院したらしいのです。しかも、顔の筋肉などの損傷も酷く元には戻らないと言われたらしく、Aは
「俺の顔どうしてくれるんだよ、こんな顔じゃ結婚なんて絶対出来ない。お前のせいなんだから、責任取って結婚しろよ」
とS子に言ったらしいのです。Aは、元々結構なイケメンだったので、ショックはかなり大きかったみたいですが、S子いわく
「あんな化け物みたいな顔になったAと結婚なんかしたくないから逃げて来た」
と。
しかしわたしも嫌だったので
「でも、もうM先輩とかに会いたくないし」
と言うと、S子は
「あぁ、M先輩なら何ヶ月か前に、大きな事故に会って入院したから大丈夫」
と、さらっと言いました。そして元彼も、あれから3ヶ月位で辞めたから、今居るのはTだけらしい。でも、TはAと仲が良いからS子の事を多分恨んでるので、取りに行けないのだとか。
わたしは仕方なく、S子の荷物を取りに行く事にしました。荷物と言っても、小さなジュエリーケースだけなのですが。S子にとっては、本当に大切にしている物で、どうしてもそのままには出来ないそうです。