私たちは、廊下に出ると音を立てない様に、ゆっくりM先輩の部屋に近づきました。そして彼氏がそっと部屋のドアを開けると、部屋は薄暗く部屋の奥にM先輩が、こちらに背中を向けて座っているのがうっすら見えます。しかし、良く見てみるとM先輩は僅かに体を左右に揺らしているのです。それを見てAは小声で
「まさか、座ったまま寝てる?」
と言いました。それを聞いた私たちは、笑いを堪えるのに必死になりながらも、寝てるなら財布はテーブルの上に置いて来ればいいのでは?と言う事になり、誰が置きに行くかを決める事になりました。その際、わたしは最初に財布を取りに行ったので除外され、残りの4人でジャンケンをしたところ、結局後輩のTが置きに行く事に決まりました。
Tは、財布を持つと嫌々部屋に入ったのですが、突然
「ひっ」
と小さな悲鳴をもらしました。それを聞いたAは
「バカ!声出すな!」
と小声で言いましたが、Tは財布をテーブルの上に置くと、慌てて出て来ました。そんなTに彼氏が
「何やってるんだよ!先輩が起きちまうだろ!」
と言いましたが、Tの様子を見て只事ではないと思ったのか
「おい、どうした?」
と聞くと、Tは青い顔をしながら
「腕が、マネキンの腕が」
と言いました。それを聞いたAが
「マネキンの腕って何だよ」
と言いながら中を覗くと、すぐに首を引っ込めて
「あ、ある…あのマネキンの腕が…」
と言い、顔を恐怖で歪ませました。そしてTが
「俺が窓から見た時には、確かにマネキンの腕はあそこに有りました。今、ここに有るハズが無い!」
と言って、初めてわたしとS子も理解し、言い知れぬ恐怖を感じたのです。