そういう作業を何度も「しっかりしろ」と大声で彼女に呼びかけながらやっている時に、
「宮川さぁーん、私ここで死ぬからあー」
「宮川さぁーん、奥さんも子供もいるからー、あぶないからぁー、もういいよぉー」
 という声。かなり弱った声だったが、叫ぶような声だった。彼女自身でもう駄目と判断してのことだろう。

 まったくやり切れない気持ちだった。声が聞こえてくるのに助けられない。くやしさが全身を貫く。
 十六時、彼女の声はまったく聞こえなくなった。カメラ助手の新谷隊員、そして当日頂上アタックした山田、大野両隊員もクレバスに降りた。
しかし誰も宮川隊員が降りた位置より下には行けず、二十一時ついに救助作業を打ち切った。(京都山岳会隊・宮川清明隊員の手記)
 
白水さんは二十九歳、独身だった。

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